琴葉と一緒に
「……ふふ」
「ん? 機嫌よさそうだな、琴葉」
「うん。だって、マー君とお出かけなんて久しぶりだから。……実はちょっと寝不足なんだ。楽しみすぎて昨日あんまり眠れなかったの」
「おいおい、大丈夫か? 今日行くのはダンジョンだぞ? 体調不良ってんならやめといたほうがいいんじゃないか?」
「あ、ごめんなさい。でも、大丈夫だよ。今日行くところは危険度が一番低いダンジョンだから」
近所に住む琴葉を家にまで迎えに行き、そのまま駅へと向かい、電車に乗った。
働いている俺のために、わざわざ日曜日の朝早くから電車移動しつつ、向かっているのはモンスターはびこるダンジョンだ。
ニマニマと笑いながらも、たまにあくびを噛み殺している琴葉を見て、俺は思わず引き返すかと提案してしまっていた。
だってそうだろう。
ダンジョンに潜るための準備はしっかりしてきたし、初心者向けの危険度が低いとされているところを選んでいるとはいえ、けがをしてはつまらない。
だが、俺の提案を思った以上に強く断ってダンジョンに行こうとする琴葉。
「もしかして、もうそのダンジョンに行ったことがあるのか?」
「うん。実はそうなんだ。クラスメイトの子に誘われて少し前に一回だけ」
「……クラスメイトってもしかすると前に写真に映っていた奴ら、か?」
「え? ああ、あの写真? 私が【錬金術師】になったよって、マー君に送った時のやつかな? ふふ、違うよー。あれは友達の知り合いってだけで、別の学校の子だし」
友達の知り合い、か。
インドア派の琴葉だからその友達というのもおとなしい女の子なのではないかと思うのだけれど、そこからのつながりでチャラ男っぽい連中がいるのか。
電車に乗っている時間は話をするくらいしかないので、そのへんのことを軽く聞いてみたが、どうやら文化祭で琴葉の友達がナンパされたらしい。
そのときは、声をかけられてちょっと話をしただけだったようだ。
が、その後にクラス内でみんなでダンジョン探索のライセンスを取りに行こうよ、という話になって実際に行った先で再会したのだとか。
なので、彼らチャラ男の狙いは琴葉ではなくその女友達のほうなのだとか。
「ってか、高校生も結構ライセンス取ったりするものなんだな。危ないからやめとけって言われたりするのかなって思ってたよ」
「講習のお金に学割きくんだよね〜。だから、夏休みとかで結構みんなライセンス取りに行ったりするんだよ」
「ああ、たしかに社会人だとそれなりにお金かかったからな。どうせライセンス取るなら学割きくうちにってことね」
「うんうん。それに、これから行くダンジョンも学生向けとかに国が推奨しているところだしね。危なくなくておいしいダンジョンってパンフレットまで出てるんだよ」
「おいしいダンジョン? 危険度低いのに経験値効率がいいとか、そういうこと?」
「あははー、それが違うんだよね。っていうか、調べてこなかったの? 今日行くのは、お野菜ダンジョンだよ」
……お野菜ダンジョン?
いや、そんな名前じゃなかったような気がする。
ダンジョンは危険度が一目でわかるように国からランク付けされている。
そして、公開された順番に番号が振られているために、今日向かっているダンジョンの名前は【F-47】というダンジョンだったはずだ。
一番下の難易度・危険度という意味でFクラスというわけだ。
決してお野菜ダンジョンとかいう名前ではなかったんだけどな。
「友達はみんなそう呼んでるんだよね。もちろん、F-47ダンジョンのことだよ。このダンジョンは野菜が取れることで有名で、おいしい野菜があるんだけどね。特に今回の狙い目は甘〜い果物なんだ〜」
「……ダンジョンで食べ物を収穫して食べよう、ってこと? なんかそれってピクニックみたいだな」
「そうそう、ほんとそれだよ、マー君。もちろん、ダンジョンだから気を付けないといけないんだけど、今日は一緒に楽しもうよ。ね?」
どうも、俺はダンジョンについて硬く考えすぎていたのかもしれない。
今をときめく高校生はダンジョンにピクニック気分で行くのか。
俺はスキルやなんかを中心に調べていたので、まさかそんなダンジョンだとは思ってもみなかった。
けど、それくらいのほうがいいのかもしれない。
ぶっちゃけ、まともなケンカすらしたことないしな。
モンスターと大乱闘を繰り広げるよりもはるかに楽しそうだ。
そんなこんなで、俺は幼馴染である琴葉とともに、お野菜ダンジョンへと向かっていったのだった。
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