初めての苦無投擲
今日は仕事は休みである。
というか、明日も休みだ。
本当ならば休みになれば琴葉と一緒にダンジョン探索に行こうと考えていたのだけれど、残念ながら今日は琴葉に予定が入っているという。
というわけで、明日は一緒にダンジョンに行くことにし、今日はソロ活動というわけである。
朝からF-108ダンジョンへとやってきた。
今週は頻繁にこのダンジョンへと来ていたけれど、いつも仕事終わりの夕方からだった。
それが今日は早朝だ。
朝早いからか、それとももともと不人気ダンジョンというわけだからか、ほかに探索者らしき人も見かけなかった。
ギルド建物にあるロッカーで装備を整えてから、地下室を経由してダンジョンに潜る。
本日のミッションはこのダンジョンの奥へと行くことだ。
できれば、販売されている地図の外にあたる部分を探索したい。
そこでほかにもモンスターハウスとなっている場所が見つかればそれでよし。
なくとも、モンスターハウスとして使用できそうな人が来ず、小部屋になっており、さらには一定距離離れた場所から攻撃できる好都合な場所を探す予定だ。
そして、そんなダンジョン内の好物件を探すのと並行して、琴葉に作ってもらった苦無の練習もしていこうと考えている。
この苦無は投げナイフを所望したところ、琴葉の【錬金】によって生み出されたものである。
スリングショットの玉でも使用した素材のダンジョン産の金属製だ。
よくわからないが、この金属は【錬金】で加工しやすく、重量がそこそこあり、それなりに丈夫であるという特性があるそうだ。
市販されている投げナイフもあるのだろうけれど、さすがにそこらの店で購入できるような物ではないだろうし、通販で買うにしても届くまで多少時間がかかってしまう。
今日の探索のために急遽用意してもらった以上、こいつを使いこなしていこうと思う。
いつも通り、【運び屋】として荷物を背負い、まずは以前から使っている小部屋へと向かう。
その道中にも【収集】スキルを用いてスキル熟練度や経験値、魔力や魔力精製水などを回収しつつ進んでいく。
すると、すぐにモンスターを発見した。
毎度おなじみのスライムさんである。
いつもならば、スリングショットで狙い撃つところだ。
今日もスリングショットは持ってきてはいる。
が、それには頼らずに、苦無を手にした。
こいつを投げてスライムの粘液の中にある核に当てなければならない。
多分、スリングショットよりも難しいと思う。
というか、今更だけれどどこかで練習しておいたほうが良かったと思った。
町中で苦無を投げる場所なんてないが、ダンジョンを入ってすぐの適当な場所で壁にでも向かって放り投げておくくらいは必要だったかもしれない。
だめだな。
油断大敵だ。
スライムもモンスターである以上、舐めてかかると危険だ。
だが、発見したときの相手との距離は十分にあり、向こうのスライムはこちらにまだ気が付いていない。
念のためにも周囲へと目を向けて、ほかにスライムがいないこと、また、他の探索者がいないことも確認してから苦無を構えた。
練習はしていなかったとはいえ、これでも一応投げ方は調べてきた。
琴葉に作ってもらったのが苦無タイプだったのだが、ネットで調べるとその投げ方講座が動画投稿サイトに公開されていた。
現代に忍者はいないが、忍者好きは世界中にいるようで、苦無の投げ方解説もそれなりに視聴回数を集められるものらしい。
そんな動画を思い出しながら見よう見まねで構え、狙いを定める。
苦無の刃の部分を挟み込むようにして握り、腕を垂直に振り下ろすようにして投擲する。
スライムへと向かって飛んでいく苦無。
方向は悪くないと思う。
が、空中の苦無が縦回転でクルンクルンと回りながら飛んでいるところを、ドローン三機のライトが暗闇のダンジョン内でも克明に浮かび上がらせていた。
あんなにクルクル回って対象に当たるものなんだろうか?
というか、当たったとして苦無の刃先がちょうどぶつかるものなんだろうか。
攻撃を行った俺自身がそんな疑問を持つ苦無による投擲。
ど素人が放ったそれは、しかし思った以上に勢いよくスライムへと命中した。
……これは多分、レベルが上がったからだな。
肉体のレベルが上がり、それに伴い力も増えたからからだろう。
うまくいったからなのか、それとも運がよかったからなのか。
はたして、それは俺には判断がつかなかった。
だが、記念すべき最初の苦無による投擲はスライムの体表である粘液に対して刃先が突き立つように命中した。
が、粘液だったからだろうか。
そのまま、スライムの粘液内でも縦回転しながらそのままスライムの体の奥に進んでいき、その核にぶち当たって吹き飛ばした。
攻撃は成功した。
しかし、刃物を用いた攻撃力アップと言えるかは微妙なところだ。
まあ、いいか。
狙い通り遠距離の相手に飛んで命中したことには変わりはないし、それに刃先が核に当たって魔石が砕けるということもなかったわけだし。
そんな風に気持ちを切り替え、結果に満足した俺は、その後も苦無を使いながらダンジョンの奥へと進んでいったのだった。
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