スライムハンターへの道
一月か二月後には入ってくるであろう新人たちに対して、まだ二十歳にもなっていない俺が教育係となる。
そのためには、黙って俺の言うことを聞いて実行させることができる、というくらいの説得力を俺が持ち合わせていなければならない。
多分、それは今のままでは無理だ。
人よりも仕事が早い、というだけでは舐められてしまう。
なので、パッと分かる判断材料として探索者としてのレベルを上げるのが一番であると俺は結論付けた。
そうすれば、少なくとも俺と同じような行動をしていれば同じくらいまでのレベルにはなれるという分かりやすい説明が成り立つからだ。
そのためにもレベルを上げていく必要があるのだが、どうすべきか。
考えられる方法としては二つある。
一つは今のまま、F-108ダンジョンに潜り続けるという方法だ。
この方法ならばすでにある程度レベル上げのやり方を確立できている。
ダンジョン内を歩いている間、【収集】スキルを使って魔力精製水を集める。
そして、その魔力精製水を餌としてスライムを集めてモンスターハウスを人為的に作ることで効率的にレベル上げができるという寸法である。
だが、このやり方でどこまでレベルが上がるのだろうか。
そこにちょっと疑問がある。
というのも、普通に考えれば頭打ちがやってくるはずだからだ。
スライムという雑魚を倒して得られる経験値がそれほど多くはないであろうことを考えると、いつか近いうちにモンスターハウスにいる大量のスライムを撃破しても一向にレベルが上がらないという事態になりそうな気がする。
そして、さらにいえば、この方法でレベルを上げていったところで、多分俺はたいして強くなれないだろうというのも問題だ。
これはひとえに【運び屋】という【職業】であるからだ。
いわゆる戦闘職と呼ばれる【職業】には【剣技】や【槍技】などといったスキルがあるらしい。
それらの戦闘技術系のスキルはそれを持つ者の体の動きを最適化してくれるのだとか。
つまり、【剣技】スキルを持つ人であれば剣を振るっていれば素人であってもだんだんと達人のような域に到達できる。
が、俺にはそんなスキルは当然ない。
肉体を強化するスキルとしては【体力強化】があるが、これは持久力を高めてくれるだけだ。
フルマラソンを走る体力はつくけれど、競技者のようなきれいなランニングフォームではない、という感じだろうか。
肉体レベルが上がっても、技量がそれについてこない。
だって、スライムをはめ殺ししているだけで得た力なのだから。
それを考えるともう一つの方法も検討の余地があるだろうか。
それは、慣れ始めたF-108ダンジョンではなく、ほかのダンジョンに潜ることだ。
ある程度安全で、ある程度戦闘技術を得られ、それでいてスライムを倒すよりも経験値が得られそうなダンジョンというのはないだろうか。
「ゴブリンが出てくるダンジョンに行くとかってどうかな? 子どもくらいの体の大きさのモンスターが相手なら今の肉体レベルだと勝てると思うんだけど」
「駄目だよ、マー君。そんな危ないことをしちゃダメ」
「ダメかな? でも、見てみろよ、琴葉。このゴブリンダンジョンって結構人気みたいだぞ。戦闘職を得た奴らが一番最初に肩慣らしに潜っているって、ネットに出ているし」
「ぜったいに、駄目!! 私の友達がケガしたって言ったでしょ? それはゴブリンが出るダンジョンだったんだよ」
「え、あー、そうなんだ」
「うん。ほかの人たちに戦闘系の【職業】を得た人がいたから、絶対安全だから一緒に行こう、って誘われて行ってケガしたんだからね。だから、マー君はダメ」
う……。
それを言われると弱いな。
けど、戦闘職系でもケガするダンジョンということは、少なくとも肉体レベルが上がった程度の【運び屋】が一人でジム替わりに入るダンジョンとしては適さないか。
なら、やっぱりF-108ダンジョンでもう少し上げられるだけレベルを上げたほうがいいのかもしれない。
戦闘経験は得られないかもしれないけど、それはもう割り切ることにしようか。
「よし、じゃあ、俺は引き続きF-108ダンジョンに潜るよ。でも、もうちょっと奥まで行ってみようかな」
「あんな暗いダンジョンの奥まで行って大丈夫なの?」
「ああ。琴葉が作ってくれた魔力バッテリーで動くドローンが便利だったからね。そうだ。実はあれ、今日追加でもう何個か買ってきたんだ。こっちのドローンのバッテリーにも【錬金】して魔力バッテリー化しておいてくれないか?」
結局俺はこのままスライムハンターの道を進むことにする。
が、さらに奥へと行ってみる決意もした。
というのも、比較的出入り口から近い位置でばかりモンスターハウス化していたら、誰か無関係な人に見つかったりして事故の元になるかもしれないと思ったからだ。
そのためにドローンの数を増やすことにする。
複数個を使うことで、より正確に移動地点を割り出してくれて洞窟内でも迷いにくくなることを期待してのことだ。
こうして、俺はさらなるレベルアップを求めてダンジョンの奥深くへと潜るのだった。
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