面談
「ふーむ。つまり、如月君はダンジョンの探索者ライセンスを取得して【運び屋】という【職業】を得たから、これほどまでに仕事を早く終わらせられるようになったというんだね?」
「はい。ただ、正確に言えば【運び屋】の【職業】が持つスキルのレベルが上がったから、ですね。ライセンスを取得しただけの状態だと、それまでとあまり仕事をこなす速度は変わりませんでした」
俺が探索者となったこと。
そして、ライセンスを得てダンジョンで【運び屋】になったこと。
さらに、その【運び屋】が持つスキルが育ったこと。
最近の俺の仕事ぶりを説明するのに、俺はそれらのことをすべて説明した。
どう言われるんだろうか。
すごくドキドキしている。
と、言うのも、俺は社長から「ダンジョン探索禁止」と言われないかと危惧したからだ。
この会社は副業禁止だとは聞いていない。
なので、社員によっては定時に仕事を上がった後に、別のバイトを深夜に入れている人もごく少数だがいるのだ。
聞いた話だと離婚して養育費を支払うためだとか、そんな理由だったはずだ。
なので、その点からいえばダンジョンの探索者ライセンスを取ったこと自体はとがめられることではないと思う。
ただ、ダンジョンは場所によっては危険もある。
お野菜ダンジョンのようなほのぼのした場所もあるにはあるが、やはり基本的には危険な場所であるからな。
で、もしも俺が会社の社長だったらどう思うだろうか。
自分のところの社員が危険な場所に夜な夜な足を運んでいると聞いて、思い浮かべるのはなにか。
それは、ケガをして翌日に仕事を休まれることではないだろうか。
つまり、社長から社会人としてのリスク管理として、ダンジョン探索は控えるようにと言われても決しておかしくはないのだ。
そうなったらどうしようか。
単純に想像しただけでも嫌だなと思ってしまう。
ダンジョン探索は楽しんでやっているし、レベルが上がるのもうれしい。
それに、琴葉と一緒にダンジョンに潜るために車まで買ったからな。
別にダンジョン探索を仕事として稼ぎたいとまでは思っていないが、せめて探索者になるために、そしてなってからのかかった費用分くらいはもっと楽しみたいのだ。
社長の一言によっては、俺は進退を考えないといけないかもしれない。
本気でそう考えた。
思わず、目の前にいる社長の顔をじっと見つめる。
何かを考えているかのように少し伏し目がちのその目を俺は睨むように見つめていた。
「……お、おいおい。怖い顔をしないでくれよ、如月君。別になにも探索者になったことをどうこう言うつもりで呼び出したわけではないんだ」
「そう、ですか。ありがとうございます。実はちょっとそれを心配していて……。では、これからもダンジョンには潜ってもいいですか?」
「ああ、かまわないよ。まあ、怪我にだけは十分に注意してくれ」
「はい、もちろんです」
良かった。
もしかしたら、俺はダンジョンを諦めるか、仕事先を変えるかの二択を迫られるところだった。
だが、どうやら社長にはそんなつもりはなかったようだ。
むしろ、改めてこうして許可を得られたというのは大きいだろう。
堂々とこれからもダンジョンに行くことができるのだから。
「もう一度確認したい。ダンジョンに入って得られるスキルというのは、レベルが上がれば誰でも如月君のように仕事を早くこなす役に立つものなのかい?」
「え、まあ、多分。私も最近探索者になったばかりですからちゃんとは知りませんが、今の自分と同じことをするだけならできるんじゃないでしょうか。あ、でも、【運び屋】じゃないと荷物運びは早くならないと思います。違う【職業】だと持っているスキルが違うので」
「うーむ。だがな、如月君。実はこの物流業界でもダンジョンができて以来、【運び屋】というものに注目が集まったことがあったのだよ。だが、結局はあまり役に立たないといわれたんだ」
「え? そうなんですか? 倉庫仕事や物流の仕事だと絶対に役立つと思うんですけど」
「うむ。如月君の仕事ぶりを見ていたら、私も同意見だ。と、言うわけで私はここでチャレンジをしてみたい。君も私のチャレンジに付き合ってもらえないだろうか?」
チャレンジ?
なんのことだろうか。
いきなり社長のこれからの行動に付き合ってほしいと言われ、なんのことだろうと思った俺はそのまま社長の話に耳を傾けたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけけますと執筆の励みになります。




