呼び出し
「フンフンフーン」
「はっはっは。調子よさそうだな、如月。さすがは即決で車を買うだけあるな」
「うっす。結構散財したんで仕事はしっかり頑張りますよ、緒方さん」
車と自転車の購入をした翌日。
俺は朝から張り切って仕事をしていた。
誰よりも早く動き、重たいものを率先して運んでいく。
次々に指定された荷物を指定された場所まで持っていき、それを繰り返していく。
ただ、あまりに張り切りすぎただろうか。
今日の分の荷物が午前中でだいぶ片付いてしまっていた。
近くにいた緒方さんなどは、「これどうするよ?」などとほかの社員さんたちと話をしていたのも耳にしている。
普段からやることがなくなっても自分からなにかできることを探してやるのが仕事だ、と主任が言ってくることが多い。
ただ、ここまで仕事の進むスピードが早いのは誰にとっても想定外だったのだろう。
さすがにスキルレベルが上がっただけある。
【重量軽減】に【体力強化】のレベルが上がったおかげで、俺一人で数人分の仕事ができてしまうくらいだ。
「っと、そうだ。あまり無駄話をしていても俺が怒られるな。如月、お前に呼び出しがかかっているぞ」
「呼び出しですか? 俺、なにかしましたか?」
「さあな。現在進行形でやっているといえば、そうだろうが。社長が呼んでいるそうだ。さっさと行ってこい」
「え? 社長が? 分かりました。すぐに行ってきます」
急な呼び出しがあるという緒方さんの言葉を荷物を持ちながら聞いていたが、まさか社長からだとは思わなかった。
俺が勤めている会社は大きなものではない。
なので、社長とも仕事中にすれ違って挨拶をすることは普通にあるのだが、一番下の入ったばかりの俺が呼び出されることは今までほとんどなかった。
なにか用事があったっけかな?
手にしていた荷物を急いで運び終えた俺は、すぐにいつもの事務所の奥にある扉へと向かう。
そこに社長がいるはずだからだ。
「失礼します。如月です」
「おう、来たか。入ってくれ」
扉をノックして声をかけると、すぐに返事が返ってきた。
社長の声だ。
年齢が五十代の社長はもともとは別の会社に勤めていたらしい。
そして、そこで経験を積み、独立して今の会社を作り、育ててきた。
なので、この会社はほぼ社長のワンマン会社といっていいかもしれない。
ただ、悪い会社ではない。
むしろ、俺はここに就職できてよかったと思っている。
もともと、人脈を持っているということから仕事を常に受注し続けているらしく、経営状態は良いと聞いている。
さらには社長自身が社員として働いていたときに感じた嫌なことを、自分の社員には体験させたくないという思いから、割と福利厚生には力を入れているらしい。
おかげで俺は仕事を定時で上がることができているし、ダンジョンにも潜ることができている。
今年高校を卒業してそのまま就職した俺にとってはいい会社ではないだろうか。
が、それゆえに緊張する。
もし俺が気が付かないうちに大きな失敗をしていたら、社長の一言で思いもよらない事態になるかもしれないからだ。
社長室、というには乱雑に書類が積み上げられた机の前に椅子がある。
部屋に入った俺は社長に勧められてそこに座る。
そして、それをみて社長は机の上にある書類の束を脇へとどけるようにしてから、俺に話しかけてきた。
「作業中にわざわざ来てもらって悪いな、如月君。ちょっと聞きたいことがあってね」
「はい。なんでしょうか、社長」
「主任の山田君から、最近倉庫の荷物移動の作業がかなり早く終わっているという報告が今週から入っていたんだ。で、聞くところによると如月君がかなり頑張って仕事してくれているみたいだね。助かっているよ」
「あ、はい。いえ、仕事ですから」
「そうか。ただ、昨日今日はかなり仕事の進み具合が早いみたいだね。で、如月君に聞きたいんだが、どうやっているのかな? 僕も今日、倉庫で君が仕事をしているところを見たけど、重い荷物をいっぺんに運んでいただろう? しかも、箱をいくつも積み重ねて。あれは普通だったら箱が傷むから禁止なんだが、確認したら箱に傷とかが一切見られなかったから気になってね」
……そういえば、あったな。
本来であれば積み重ね禁止と言われている奴があるのだが、スキルを使っていたので油断していた。
【重量軽減】は俺が荷物を持っている間は物理的に重さが軽くなる。
だから、積み重ねても上の箱の重量で下の箱に傷がつく、なんてことはないと思って時間短縮のためにやっちまった。
どうしようか。
すぐに謝るべきかもしれない。
が、社長の話ぶりは決して俺のミスを問い詰めて怒ろうという感じではない。
ならば、言ってしまおうか。
ダンジョンに潜り、【運び屋】としてのスキルを得たことでの行動である、と。
少し考えた後、俺は自分の現在の能力についてを社長に説明することにしたのだった。
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