【運び屋】
【運び屋】という【職業】はハズレである。
少なくとも今は多くの人間からそう思われている。
もちろん、ダンジョン管理庁による公式ホームページにはそんなことは一切書いていないのだが。
なぜ、【運び屋】にそんな評価がついたのかというと、この【職業】は代わりが利くからだ。
【運び屋】となったことで、通常よりも多くの荷物を運ぶことができるようになるものの、実はダンジョン内には車などの輸送機が入ることが可能なのだ。
それこそ、大型のトラックですら侵入することが可能である。
なので、【運び屋】となった人間が荷物を背負って歩くよりも、トラックで次々とダンジョン素材を運び出してしまえばいい、となり、それが【運び屋】の評価の下落につながった。
といっても、すべてのダンジョンにトラックが入ることができるわけではない。
ダンジョンは内部の様子が千差万別であるのと同様に、入口の形や大きさもいろいろあるのだそうだ。
当然ながら入口が小さかったり、段差のようになっているダンジョンにはトラックが出入りできない。
が、逆に言えば出入り口が大きければ問題なく入ることができるということでもある。
国が管理し、民間に開放されていないダンジョンにはそのようにトラックなどが出入りしやすいものが多数あると言われていて、日々ダンジョン素材を確保しているのだろう。
国は優秀な人材をダンジョン内に派遣し、たくさんの素材を得ると同時に、さまざまな【職業】についての情報も手にしていった。
だが、そのなかには【運び屋】の情報というのは限られてしまったというわけだ。
ダンジョン内での戦闘に有利な戦闘職であれば、モンスターとの戦闘を繰り返すことで新たにこんな力を手に入れた、だのなんだのと興味深いデータが集まっているにも拘わらず、【運び屋】はそうではないということだ。
ちなみに、【錬金術師】も国から求められている【職業】であるためか、いろんな情報の開示があってうらやましかったりする。
「ただ、別に何の役にも立たないってわけじゃないのが救いだな」
琴葉とダンジョンに潜ることに決めた日の前日に、改めて公式ホームページを見ながら独り言をつぶやいていた。
自分の【職業】について面白みはないのは変わりないが、別にデメリットが発生しているわけでもない。
むしろ、メリット自体はきちんとあるのだ。
【運び屋】という【職業】を得たことで、俺は【スキル】を手にしている。
そのスキルは一つではなく、三つだ。
【重量軽減Lv1】と【体力強化Lv1】、そして【収集Lv1】というスキルがそうだ。
【重量軽減】というのは荷物の重さを減らしてくれるという、なんとも【運び屋】らしいスキルだ。
ちなみに体感重量ではなく、物理的にきちんと重量が軽減されるらしい。
このスキル一つとっても、物理学者は生涯頭を悩ませ続けることになるのではないだろうか。
この【重量軽減】があるおかげで、【運び屋】であれば頑張れば崖のぼりをしながら、重たい荷物も運んだりできるらしい。
実際に重量が減ることで、つかんでいる崖の岩が崩れたりしなくなるのだろう。
なので、トラックやバイクなどの輸送機が通れないところでも、ダンジョン素材を持ち帰ることができる可能性は十分にある。
もっとも、今はダンジョンにどんな素材が眠っているのかわからず、むしろより取り見取りだからこそ、効率のいい大型トラックを国などは使っているのだろうけれど。
【重量軽減】と同じく、【体力強化】も【運び屋】らしいスキルといえるかもしれない。
これは、そのまま体力を強化してくれるありがたいスキルだ。
荷物を背負い、歩き続けることができるようになる。
まあ、スキルにはレベルというものがあるために、スキルを鍛えてレベルを上げないとそこまで大きな効果はないようだが。
Lv1だとちょっと強化してくれる程度だろうか。
ちなみにゲームでいうHPみたいな体力ではないので、いくらスキルレベルが上がっても俺の体の耐久力には影響しない。
なので、この体力は持久力と言い換えられる部類のものだそうだ。
そして、最後に【収集】だが、これはダンジョンで得た素材を集めてくれるものらしい。
実はひそかに期待していたのだ。
マジックボックスとかそういう能力なのではないだろうか、と。
異空間に荷物を入れて取り出すだとか、袋の見た目以上に内部を拡張して持ち運べたりできるのではないかと思ったが、全然違うらしい。
ただ単に、ダンジョン内で手に入れた素材を自動で袋に入れてくれるのが【収集】スキルの能力らしい。
公式ホームページでは「薬草を収集」と考えながらダンジョン内で草むしりをしていたら、むしった草から自動で薬草を鞄の中に集めてくれるスキルである、と解説されていた。
なので、採取自体は各自の手を使ってやる必要もあるのだとか。
便利っちゃ便利だが、微妙な感じだな。
ま、それでも【錬金術師】たる琴葉とともにダンジョンに行くならば、十分に活用できるスキルといえるだろう。
改めて自分の【職業】についてのおさらいを終えた俺は、翌日のダンジョン探索に備えて、布団に潜り込み眠ることにしたのだった。
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