利便性
「マー君は明日もダンジョンに行くの?」
「いや、明日はちょっと行くところがあるからダンジョンには行けないかもしれない。行けたら行きたいんだけどね」
「あ、そうなんだ。うん、それがいいよ。さすがにあんなに暗いところに毎日行くのは体が疲れちゃうもんね。でも、それならどこに行くの?」
「あー、そのことなんだけどな。車でも買おうかと思っているんだよね」
「え、マー君、車を買うんだ?」
「一応、そのつもりかな。今までは必要ないから持ってなかったけど、やっぱり時間を気にせずに移動できるし便利だから」
そろそろ琴葉の家からおいとましようかと考える時間になった。
帰る雰囲気を出し始めた俺に対して、琴葉が明日の予定を聞いてくる。
ここ数日は毎日ダンジョンへと潜っていた俺だから、明日もダンジョンへと行くのだろうと思ったようだ。
だが、俺は明日はダンジョンへは行かずに用事を済ませることにしようかと考えていた。
それは、車の購入だ。
現状では俺は車を所有していない。
これは必要なかったからだ。
自転車や電車、バスがあればある程度不便なく暮らせる生活であったともいえるだろう。
が、これからは必要かもしれない。
というのも、いくつか理由があった。
それらの理由の大本は当然ながらダンジョンにある。
最近始めてドはまりしているダンジョンライフだが、どう考えても車があったほうが便利なのだ。
ひとつは荷物にある。
【運び屋】の俺は背負子を背負い、それに複数の鞄を積んで、さらには武器なども持っていく。
そして、それら以外にも身に着ける装備もたくさんあり、今日などはドローンまで持ち込んだのだ。
それらは現状ではダンジョンを管理しているギルドの建物のロッカーに預けている。
荷物を預けられる、というのは非常にありがたい。
最初はそう思っていた。
けれど、数日ダンジョンに入ってみて思った。
それはダンジョンをレベルを上げるトレーニングジム代わりに使っていたとしても、決してジムと同じではないのだということだ。
ダンジョンに入ればその際に入手した荷物もある。
行きよりも帰りのほうが荷物の総量が増えるというわけだ。
さらに、身に着けていた衣服などはロッカーに放り込んでおくわけにはいかない。
そんなことをすれば運動部のロッカーのように異臭の漂う魔のロッカーとなってしまうだろう。
そして、衣服以外もきちんと手入れしておいたほうがよいものもある。
それらを持って帰ろうとすればどうしても大荷物になってしまうのだ。
【運び屋】のスキルがあるから背負って帰れば疲れるわけでもないのだけれど、【重量軽減】スキルはあくまでも重量を軽くしてくれるだけではない。
アイテムボックスのようにどんな荷物の量でも手ぶらで移動できるわけでもないので、どうしても邪魔になってしまうのだ。
さらに言えば、ロッカーに荷物を預けておくと、別のダンジョンに行くことができなくなるという問題もあった。
たとえば、今はF-108ダンジョンへと足繁く通っているが、休日などは琴葉と一緒にF-47ダンジョンであるお野菜ダンジョンに行くことになるだろう。
あるいは、平日の仕事終わりに別のダンジョンへと急に行きたくなるかもしれない。
そんなときに、いちいち荷物を預けてあるギルド建物のロッカーにまで取りに行くのは非常に面倒に感じてしまう。
それにダンジョンというのは人間の生活にあわせて出現したわけではないしな。
俺が行ったことのある二つのダンジョンは駅から近かったが、そうでないものも多い。
もしも、今後、レベルを上げるのにさらに好都合なダンジョンに行きたいと考えたとき、公共交通機関では行きにくい場所だったら困るだろう。
そんなもろもろのことを考えると、自分の車を買ってそこに荷物を積めるようにしておいたほうがいいだろうと考えたわけだ。
お金ならばまだある。
ちょっと最近金遣いが荒いようにも思うが、なんだかんだで住んでいるマンションが実家で俺自身が家賃を払っていないというのが大きいからな。
就職してからこれまでの給料から普通ならば家賃で結構な額が消えてしまうところを、俺はさほど無駄遣いしていなかったため、それなりに貯金ができているのだ。
とりあえず利便性を考えて、ある程度荷物が積める大きさの軽自動車が良いだろうか。
車の免許はすでにある。
最初はちょっと擦ったりしても問題ないように中古車くらいでもいいかもしれない。
そういうわけで、俺は琴葉が塾でダンジョンに一緒に行くことができない明日の仕事終わりの時間を使って、中古車販売店に顔を出すことにしたのだった。
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