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「あらあら、まあまあ。ずいぶん久しぶりねぇ、真央くん。元気にしていたのかしら?」


「お久しぶりです、おばさん」


「もう。真央くんったら、おばさんなんて呼ばないでよ。昔みたいに名前で呼んでほしいなぁ」


「えっと、じゃあ、ゆかりさん。お久しぶりです」


 俺の住むマンション。

 そのマンションを出て歩いて行ける距離に琴葉の家がある。

 ここ数日は琴葉が俺の家で【錬金】や【調合】をしてくれた後、一緒に歩いて送り届けていた。

 家の前まで行って、またな、と言って帰っていたのだ。

 だが、今日は違う。

 俺がそのまま琴葉の家にお邪魔したからだ。


「今日はどうしたのかしら? 真央くんが来るとわかっていたら、なにか用意しておいたのに。ええと、あまりおもてなしはできないかもしれないけれど、とりあえずコーヒーを淹れるわね。あ、それともジュースとかのほうがいいかしら?」


「ありがとう、ゆかりさん。それじゃあ、コーヒーをいただきます」


「うふふ。分かったわ。ソファーに座ってちょっと待っていてね」


 琴葉の家に入るとそこで琴葉の母親と会った。

 ゆかりさんだ。

 琴葉は俺と話すときには割と普通なのだが、普段はどっちかと地味なタイプだ。

 猫背気味だし、小動物っぽい感じだろうか。

 そんな琴葉の特徴はゆかりさんから引き継いでいるのだと思う。


 割と小柄で、童顔のゆかりさんは下手をすると琴葉の姉に見えるだろう。

 一緒に並んでも母親だとは思わないくらいだが、タイプは違う。

 人当たりがよく、誰とでもすぐに仲良くなれて元気なタイプだ。

 昔から俺の親が不在のときにはゆかりさんが家で預かって面倒を見てくれたりもして助かったのを思い出した。


「それで、今日はどうしたの? いきなり尋ねてきたからびっくりしちゃったわ」


「実はちょっとお話があります。琴葉とダンジョン探索のことなんですけど」


「ダンジョン? 聞いているわよ。真央くんも探索者になったのよね。琴葉ったら最近はずっとその話ばかりしているんだもの」


「ちょ、ちょっと、お母さん。やめてよ」


「いいじゃない、本当のことなんだし。それで、そのダンジョンがどうかしたのかしら?」


「実は俺と琴葉は一緒にダンジョンに潜るにあたってクランっていうのを作ったんです。それぞれがダンジョンで手に入れた素材を共有して、そこから生み出したものを管理する。いってみれば会社みたいな組織です」


「へえー、クランね。それがどうしたの?」


「同じクランで活動するってことで、今は俺の家の一室を倉庫代わりにして活動拠点としているんです。それで、できれば琴葉にはダンジョン探索や素材を使った生産をしてほしくて、平日とか時間のある時にダンジョンにまつわる活動をする許可をもらえないかと思って今日はお話に来たんですよ」


「あら、そんなことなの? いいわよ、別に」


「いいんですか?」


「問題ないわ。だって悪いことをしているってわけじゃないんでしょ? それに、遅くなったら真央くんが送ってくれるなら安心だしね。ただ、琴葉はちゃんとお勉強もしないとだめよ? あんまり成績が悪くなったりしたら、さすがにお母さんは意見するからね」


「大丈夫だよ、お母さん。マー君の家で物を作るだけなら、勉強の邪魔にはならないもん」


「はい、決まりね。話はそれだけ?」


「え、あ、はい。っていうか、いいんでしょうか? 琴葉のお父さんの話は聞かずに決めても」


「大丈夫でしょ。あの人は琴葉の塾が何曜日にあるかなんて知らないもの。帰ってくるのが多少遅い日があっても琴葉から連絡があったって言えば納得するはずよ。だから、遅くなる日はちゃんと事前に連絡を入れておいてね」


 ゆかりさんによる即決。

 これにより、琴葉は平日にダンジョンに潜ったり、俺の家で【錬金術師】としてスキルを使ったりすることを認められた。

 本当はいろいろ説得材料を用意してきたのだけれど必要なくなってしまったな。

 将を射んとする者はまず馬を射よ、ということで親父さんを説得する前に母であるゆかりさんに話を持ってきたけど、決定権を持っているのはこの人だったようだ。


 なんにせよ、未成年である琴葉が平日からダンジョンでの活動をする許可を正式に保護者から得られたことになる。

 心配事がひとつ無くなった俺はそのまま琴葉の家で夕食まで御呼ばれしていただいたのだった。

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[一言] 将を射んと欲すればまず馬を射よ 馬を射てるつもりで将を射てた(笑)
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