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放課後こそ忙しい

「今日はどうだった、琴葉?」


「うん、楽しかったよ、マー君」


 F-108ダンジョンで琴葉のレベルを上げ、そして帰還した。

 再びモンスターハウスになるようにボトルに入れた魔力精製水を小部屋へと置いた状態で探索者ギルドの建物へと戻ってきた俺たちは、そこでライセンスカードを取りにいった。

 M&Kというよくわからない名前のクランを作ったことで、俺たちのカードにはそのクラン名が所属先として記載されるようになっている。

 そんなカードを琴葉は嬉しそうに受け取り、そして今、俺たちは電車に乗って俺の家へと戻ってきたのだ。


 今日のレベリングで琴葉は肉体レベルが一から八へと変化した。

 そして、俺は変化なしで十一のままだ。

 スライムを倒して得た経験値をすべて琴葉の肉体へと【収集】したことでそうなった。

 が、お互いスキルのレベルには変化がない。


「これからはダンジョンに潜るときには経験値だけを分配して、熟練度はそれぞれの体に回収するほうがよさそうだな」


 もしかすると、俺が得た熟練度を琴葉も得られるかもしれない。

 可能性は低そうだったが、今日のダンジョン探索では【収集】や【重量軽減】、【体力強化】についての熟練度も琴葉に回していた。

 あわよくば、スキルが生えないだろうかと考えたからだ。

 だが、それはさすがに都合がよすぎる考えだったのかもしれない。

 琴葉には【運び屋】に関連したスキルが新たに出現することはなかった。


 今日一日だけ、というか数時間の検証で結論を出すのには早すぎるかもしれない。

 が、日中の職場での熟練度稼ぎも功を奏さなかったことを考えると、スキルレベルというのは自分で努力する必要がありそうだ。

 うまくいけば、俺も【錬金術師】のスキルが手に入るかもしれないと考えていたがさすがに無理そうだな。


「……それなんだけど、私はマー君ほどダンジョンには行けないかもしれないよ?」


「ん、まあ、そりゃそうだろうな。俺は割と定時上がりできる職場だけど、琴葉はまだ学生だし、学校の後は塾もあるもんな。むしろ、今日まで連続で俺の家に顔出してくれていて助かったし」


 そうなんだよなぁ。

 俺よりも少し年下の琴葉は今を時めく女子高生だ。

 そして、たいていの学生というのは学校が終われば自由な時間が待っている、というわけではない。

 むしろ、学校が終わった後のほうが忙しくしているかもしれない。


 クラブ活動や塾、習い事にバイトや遊び。

 やるべきことややりたいことが山ほどある。

 そんな中でも塾などは、親が金を出してくれているがゆえに勝手に休めばばれるし、怒られもするのだろう。


 ……琴葉を俺と一緒にダンジョンに潜らせてください、なんて言ったら琴葉の両親はどう思うだろうか。

 普通ならば嫌がるかな?

 実際、琴葉のクラスメイトの子はダンジョンでケガをして怖い思いをしたそうだし。

 それを琴葉が家で親に話したかどうかは分からないが、もしかするとそういう連絡が親にもいっているかもしれない。

 学校からの連絡がなくても、保護者同士でメッセージアプリを使っての連絡網くらいありそうだしな。


「ってか、琴葉んちの親はダンジョン探索についてなにか言っているのか?」


「うーん。どうなんだろうね。お母さんは前にお野菜ダンジョンに行って持って帰ったサクランボを気に入ったから、自分でも探索者になろうかしら、なんて言っていたけど」


「親父さんは? 琴葉パパは確かしっかりした人で、ぶっちゃけ子どものときの俺は怖かったイメージもあるんだけど」


「あはは、そうかな? 私には優しいんだけどね。ただ、学校帰りにダンジョンに行くのはあまりいい顔はしないかも。遅くに帰ってくるのもダメだっていうし」


 なるほど。

 ってことは、学校のある平日は琴葉をダンジョンに連れて行くのは難しいかもしれないな。

 そうすると、休日にダンジョンでレベル上げをすることになるのか?


 ただなぁ。

 最初の琴葉の要望としては、休日こそ遊び感覚で入ることができるお野菜ダンジョンのような場所に行きたいって話だったからな。

 できれば、平日にレベルを上げるために一緒にダンジョンに潜れたらいいのだけど。

 琴葉の親を説得でもしてみるか?

 今後のことも考えて、どうしていくか、二人で考えることにしたのだった。

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