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伝わった情報

「どうだ、琴葉? 【鑑定】してみた結果は」


「この壁から出てきているのはやっぱり魔力精製水みたいだね。マー君の考えたとおり、スライムさんたちはこの水を飲むために集まっていたみたいだよ」


「いやいや。そうじゃなくて、琴葉のレベルだよ。上がったのか?」


 通路の先から袋小路になっている小部屋にいる大量のスライムに対してスリングショットで攻撃を行う。

 しばらくは、俺がスリングショットの玉を飛ばし続けるだけの光景がドローンに記録映像として残ったかもしれない。

 飛ばした玉をひたすら【収集】で回収しつつ、攻撃することでモンスターハウスとなっていた小部屋からはついにスライムの姿が消えた。

 生き残りがいないかを小部屋に入って確認し、いないと判断した後、俺は琴葉へと質問したのだ。


 そんな琴葉が壁の亀裂からにじみ出ていた水について言及する。

 違う、そうじゃない。

 それも確かに大切な情報ではあるかもしれないけれど、今重要なのは琴葉のレベルだ。

 俺の言葉を受けて、琴葉は自分自身へと【鑑定】を行い、そしてピースサインを向けてきた。


「すごいよ、マー君。私のレベルが八まで上がっているよ」


「……まじか。やったじゃん。スキルは変わりないか?」


「【鑑定】も【錬金】も【調合】も、スキルには変化ないみたい」


 なるほど。

 ひとまず、これでわかったことがいくつかある。

 俺は琴葉の変化について確認したことで、頭の中で情報を整理する。


 まず、前提として一般的に言われていること。

 ダンジョンに入り、モンスターをたくさん倒すと肉体レベルが上がる。

 ダンジョンの中でも外でも、スキルを使用すればスキルレベルが上がる。

 モンスターは自分自身で倒さなければ肉体レベルは上がらない。

 一緒にダンジョン内を探索し、協力してモンスターを倒してもとどめを刺した人がレベルアップする。


 これらのことから、これまで、少なくともネット上にある情報では自分自身の行動による成果でしかレベルが上がらないと言われていた。

 もちろん、この主流の説に対しての反論意見はネット上ではいくらでも転がっている。

 例えば、一緒にモンスターを倒してもレベルアップしないとは言うけれど、それはレベルの上がるタイミングが人それぞれでずれているから判別できないだけである、とかだろうか。

 ただ、それに対する反論としての意見もまた存在した。

 いわく、同じメンバーでパーティーを組んでダンジョン探索している者たちでは戦闘職ばかりレベルが上がり、【運び屋】などはほぼレベルが上がらない。

 そして、同じ戦闘職の者たちであってもキルスコアの高い者ほどレベルが上がるため、やはり撃破した者が経験値的なものを総取りするのではないか、というものだ。


 おそらく、この主流の説というのは間違っていないのではないかと俺も思う。

 ただし、【収集】というスキルを使わなければ、という条件が付くが。

 モンスターを倒したときに得られる経験値を【収集】スキルで集める。

 そうして、集めた経験値を人体に回収する。

 こうすると、それをしないよりも効率よく経験値を得られ、さらには俺が倒したスライムの経験値を琴葉の体に入れて肉体レベルをアップすることもできる。


 ……この俺の説を言語化すると、不思議に思える。

 ぶっちゃけて言うと、誰でも思いつきそうな簡単なことではないだろうか。

 誰かが気づいていてもおかしくはない。

 だが、このやり方は少なくとも玉石混交しているネットの情報の中でも俺は見かけることはなかった。


 多分だが、これには理由があるんじゃないだろうか。

 それは、日本ではダンジョンが出現した当初、それを見て見ぬふりをしようとしたからだ。

 急に現れた全く未知のモンスターが出てくるダンジョンという摩訶不思議なもの。

 中に入れば命の危険にさらされる危険度の高いダンジョンもたくさんあるという。


 そんなダンジョンに対して、日本国民が一番最初に心配したのは「安全かどうか」だ。

 もしも何かあったらどうするんだ。

 たとえ、それが命を懸けて内部を調べる警察官なり自衛隊員であっても、けがひとつしただけでも問題として突き上げられる。

 だからこそ、それを恐れた政府は国内のダンジョンを封鎖していった。

 その結果、ダンジョンに関する情報というのは国内からはほとんど得られなかったのだ。


 そうなると、情報は海外からのものとなる。

 で、海外ではどうなったかというと、銃を使った。

 一番の情報源が米国だったのが要因だろう。

 【運び屋】やその他の非戦闘職を得た者たちは、戦闘系の【職業】を得た者たちと比べるとレベルアップしにくいという現象に気が付き、すぐに可能な対処を行ったのだ。

 別にダンジョンが現れたからといって剣などで戦わなければならないという決まりはなかった。

 ダンジョン内にいるモンスターを銃で撃ち殺したり、あるいは車でひき殺しても良かったのだ。


 方法は何でもいい。

 モンスターさえ倒せばレベルは上がる。

 この結果、国外から入ってくる最先端のダンジョン情報として【運び屋】はハズレ【職業】であり、その【運び屋】の持つ【収集】というスキルが他者にも干渉してレベルアップを助ける働きがあるという情報に至らなかった、のではないだろうか。


 まあ、そのへんのことはどうでもいいか。

 もしかしたら全く別の流れで情報が得られなかったのかもしれない。

 あるいは、俺が知らないだけで知っている人はこんなこと当たり前に知っているのかもしれない。

 そして、俺の説が本当に正しいのかどうかも他人に対して証明する必要もない。

 俺が、俺と琴葉に対して使えればいいのだから。


 しばらくはレベル上げをしていこう。

 このF-108ダンジョンでのモンスターハウスを作る方法も得たことだしな。

 スライム相手にどこまでレベルが上げられるか分からないが、時間が許す限り肉体レベルを上げていこうと考えたのだった。

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― 新着の感想 ―
なるほど、銃が前提だから運び屋は不遇になったのね。低レベルのうちは銃で戦えても、儲けがいい上位ダンジョンの浅い階層では足手まとい。戦闘経験が下手にあるから、収集の使い方なんて確定しちゃってるだろう。こ…
[一言] 銃が前提なら運び屋でも普通に戦えるから不遇とは言われないのでは
[一言] 今の現状を見るに 現役の錬金術師は平均、どれ位のレベルなんだろう あ、もちろん、肉体の ダンジョンによって行かず、レベルも上がらないまま、錬金術だけをやって、錬金レベルだけを…
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