再現
「いた。どうやら成功したみたいだな。またモンスターハウスになっているよ」
「ここが昨日言っていたところなんだ。本当にスライムさんがたくさんいるね。でも、毎日同じところに集まるものなの?」
「条件によるんじゃないかな? 多分こいつらは餌に集まったんだよ。樹液に集まるカブトムシみたいにね」
琴葉と一緒にF-108ダンジョンへと潜った俺はあえて左回りで進んできた。
といっても、昨日と同じ完全な左手法というわけではない。
スマホの地図とドローンによる現在位置把握によって、昨日モンスターハウスとなっていた小部屋のところまで洞窟内の通路を最短距離でやってきたのだ。
その小部屋には通路の曲がり角から遠目で様子を見ると、大量のスライムがいることが分かる。
前日にいた百を超える数というほどではなかったが、それでも数十体に及ぶスライムがいた。
どうやら実験は成功したようだ。
多分だけど、これでモンスターハウスの再現ができる可能性が高い。
「どうやったの、マー君? 本当に樹液みたいな蜜を用意でもしていたの?」
「実際に甘ーい蜜ってわけじゃないけどね。ただ、もしかしたらスライムにとっては俺の用意した餌は甘く感じていたのかもしれないな」
昨日、大量にいるスライムを倒していると、俺はその場でレベルアップを感じるほどの変化があった。
それはひとえに経験値を【収集】したことによるところが大きい。
が、たとえその手法を用いたとしても一度に多くのスライムを倒すことは普通ならばできない。
なので、俺はどうにかして同じような状況を再び作り出せないかと考えた。
効率よくレベルを上げるためにはスライムを集める必要がある。
そのためにはなにか条件がないか。
小部屋にいたスライムをすべて倒し終えた後、しばらくその小部屋を調べたのだ。
そしてこう考えた。
もしかすると、スライムたちは魔力を好むのではないだろうか、と。
スライムの体にある核。
文字通り、それはスライムの急所であり、ある意味で本体でもあった。
スライムの体の大半を構成する粘液ではなく、その核を弾き飛ばせばスライムは倒せるのだから。
そして、そのスライムの核はなぜか【鑑定】を行うと魔石と表示される。
つまりは、スライムの体を動かしている原動力は魔力なのではないだろうか。
このダンジョン内には魔力が漂っている。
それは目には見えないけれど、間違いなく存在し、俺の【収集】によって集めることができる。
魔力を魔石へと集めることで、魔石のレベルさえ上げることができるのだ。
その事実をもとに考えたとき、ダンジョン内にいるスライムには個体差があったことを思い出した。
そこらにいるスライムを倒して、その戦利品として持ち帰った魔石はどれも一から五程度の低レベルではあるが、間違いなく個体差が存在している。
これはもしかすると、生きたスライムが魔力を取り込んで成長したことによる違いではないか。
つまりは、魔力の多いところほどスライムは好むのではないだろうか。
そんなことを考えながらの小部屋検分で見つけたのは壁にある小さな亀裂だった。
本当に小さな亀裂ではあるが、そこには若干濡れた形跡があったのだ。
もしかすると、俺が倒したスライムの粘液による濡れなのかもしれない。
が、手で触ってみた感じではそれほどの粘り気がない。
なら、もしかするとこの壁の亀裂からは水が出ていたのか?
もしその水に対してスライムがたかるようにして集まり、モンスターハウス化したのだとすれば、その水は魔力を含んだものだったのかもしれない。
「えっと、ようするに壁の亀裂から出ていた水っていうのは、魔力精製水だったってことなのかな?」
「さあ? このダンジョンの壁がどういう構造になっているのかは知らないけど、壁から出てくる水が精製水ってことはないだろうし、もしかすると鑑定すると魔力水とかって表示されるのかもしれないな。けど、俺がスライムを集めるために使ったのは琴葉が言うように魔力精製水だよ」
「そっかー。だからなんだね。昨日持って帰ってきていた魔力精製水の量がその前よりも少なかったのは」
「そういうこと。俺が集めて荷物として運んでいた魔力精製水をこの小部屋に残してきたんだよ。もしかしたらスライムたちが集まってくるかもって思ってのことだったけど、見事に狙い的中だ」
モンスターハウスの再現。
おそらくはこのダンジョンだからこそできる方法ではないだろうか。
スライム以外のモンスターだと小部屋に魔力精製水を残していったところで一日でこんなに数十体も集まらなかったかもしれない。
それに、真っ暗で人気のないダンジョンであるという点も大きい。
もしもここが人気のダンジョンだったら中にいる探索者も多いだろうし、モンスターハウス化する前にスライムが倒されたり、あるいはほかの人が横取りしていったかもしれないからだ。
だが、ここでは運よくすべての条件がそろったようだ。
魔力を含む水に集まるスライムたち。
位置的に奥まったところにあり、ほかの人が知らずにここに来る可能性はあまりないこと。
それに、近接武器を使う人はここまで大量に集まるスライムは相手にしにくいという点も関係しているだろう。
なんにせよ、このモンスターハウスの再現がうまくいくならばもうしばらくレベル上げに使えそうだ。
まあ、とりあえずは琴葉のレベルを上げることにしよう。
そう考えた俺はスライムを倒して得られる経験値を琴葉の総取りとなるように【収集】を意識しながら、スリングショットによる攻撃を開始したのだった。
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