粘液
「マー君ってすごいね。よくあんな離れたところにいるスライムさんにその玉を当てられるよね。そういうスキルでも持っているみたい」
暗闇のダンジョンを歩く。
ダンジョン内では俺たちに装備したLEDライトにプラスして今日は自動追尾型ドローンも周囲を照らしてくれている。
なので、いつもよりも明るい状況だが、それでも油断は禁物だ。
琴葉の知り合いもダンジョンでケガをして非常に怖がっていると言っていたので、一層の注意を払いつつ、現れたスライムを倒しながら進んでいた。
そんな時、琴葉が言ってきた。
スリングショットによる攻撃についてだ。
多分、琴葉も俺がこんな方法でモンスターを倒しているのは知ってはいても、実際に見ると受ける印象が違ったのだろう。
お祭りであるような射的をイメージしていたら、思いのほか遠くの相手を狙い撃っていたと知り驚いている。
「スライムは動きがゆっくりだし、索敵範囲も広くないからな。落ち着いて相手をすればケガをするリスクは低い相手だよ」
「そうなのかな? 動かないって言っても、遠くのスライムさんを見つけるだけでもすごいと思うよ。音もしないで壁とか床に引っ付いているのに、見つけるのが早くて驚いちゃったし」
確かに、言われてみればそうとも言えるかもしれない。
というか、最初は割と見落としたりもしていたからな。
急に頭の上からスライムが落ちてきたりだとか、五メートル以内に入ってこちらを感知したスライムが近づいてきてきたりだとか。
そんなことが何度かあった。
そんな最初のころと比べると、今は俺の索敵能力も多少向上してきているのかもしれない。
まあ、スキルには【索敵】なんてものが発生していないし、ただの慣れなんだろうけれど。
そういうスキルがあればぜひ欲しいものである。
「それにやっぱり【収集】って便利だよね。撃った玉が自動で回収されるからそれを武器に選んだって言っていたけど、ほかの人だと玉を見つけるだけでも大変だよね」
「まあな。小さな金属の玉なんて洞窟内で探すのは時間の無駄になると思うよ。それなら、近接武器で殴りかかったほうが早いし」
「でも、なんでマー君は倒したスライムさんから核しか【収集】しないの?」
「……え? どういうこと? スライムはほかに手に入れられる素材ってないんじゃないのか?」
「ううん。そんなことないよ。だって、ほら。倒したスライムさんは『スライムの核』と『スライムの粘液』に分かれているじゃない」
「んん? あ、もしかして、あの液体って素材になるのか。知らなかったよ」
琴葉に言われるまで一切気にしたこともなかった。
俺はここ数日、スライムを倒しても得られるのは魔石となるスライムの核だけだと思っていたのだ。
そして、昨日はそんなスライムを倒したら目には見えない経験値も得られるということに気が付いた。
だが、どうやら違ったようだ。
【錬金術師】で【鑑定】というスキルを持つ琴葉からすると、俺はせっかくモンスターを倒しているにもかかわらず取りこぼしているものがあるという。
それは、核とは別の、スライムの体を構成する大半である粘液だという。
「んー、でもあれって利用価値あるのか? スライムの核だったら探索者ギルドで買い取りもしているけど、粘液は聞いたことなかったけど」
「そうなの? 【鑑定】ではしっかりとスライムの粘液って表示されるから、なにかに使えるかもしれないんだけどな。あ、けど、【運び屋】さんじゃないと洞窟の地面にしみ込んでいく粘液をしっかりきれいに回収できないだろうし、それでじゃないかな?」
なるほど。
一理あるかもしれない。
スライムの核はスライムを倒した後に回収をしやすいが、粘液だと集めにくいだろうしな。
土交じりの粘液をギルドに持って帰ってこられても向こうも困るのかもしれない。
それに、核だって非常に低い買取金額なのだ。
粘液なんてものが高価で買取されることもないだろうし、そうであればいちいちギルドが買取可能品目として探索者に告げないかもしれない。
「ちなみに、【錬金術師】的にはスライムの粘液っているのか?」
「あればうれしいかも。多分ポーションとかを作るときに効果を高めてくれる素材に使えそうな気はするから」
「分かった。じゃあ、あれも【収集】していこう。どうせ魔力精製水確保のために空のボトル容器をいくつも持ってきているしな」
ふーむ。
こんなものにも利用価値はあるのか。
多分、琴葉と一緒にこのダンジョンに来なければ俺は一生スライムの体の液体なんてものに見向きもしなかったはずだ。
このダンジョンに入るほとんどすべてといっていい探索者にとっても同じことだと思う。
やはり、物を作る生産職であってもたまにダンジョンに入ってもらい、実際にモンスターを倒しているところを見てもらったほうがいいのかもしれないな。
有用な素材を意外と見落としていることも考えられる。
琴葉の一言で気付きを得た俺は、早速新たにスライムの粘液を回収先に指定したボトルに【収集】する。
そして、後からボトルの内容物の確認が自分でもできるよう「スライムの粘液」とマジックで書き込んでおいた。
そんなことをしながらもダンジョン内を歩き続け、俺と琴葉は昨日見つけたモンスターハウスの近くまでたどり着いたのだった。
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