新たな相棒
「……すごい暗いね。よくこんなところに毎日来ようと思うね」
「まあ、慣れれば案外気にならないかな。つっても、それは俺が男だからで女性はやっぱり怖いだろうけど」
ここ数日、俺が通い詰めているF-108ダンジョン。
洞窟型でダンジョンによる光源がないために、本当に真っ暗な空間だ。
ギルド建物の地下室から細い通路を通って歩いているだけで、琴葉はそのダンジョンの様子に怖がる雰囲気を滲ませていた。
女の子を連れてくる場所ではなかったかもしれないな。
もともと、琴葉にとってはお野菜ダンジョンのような明るく牧歌的な雰囲気のなかでハイキング気分で行けるところのほうが良いに決まっている。
しかも、そこで見かけたモンスターを倒すことにためらう姿勢すら見せていた。
今回は俺が他人のレベル上げをできないかどうかの検証に付き合ってもらうために来てくれているが、何も理由がなければ絶対に来ないところだろう。
というか、女の子からしてみればダンジョンに出てくるモンスターよりも、途中で洞窟内の通路にてすれ違う探索者のほうが恐怖かもしれない。
暗がりで武器を手にした人間が近くを通れば、男の俺でも緊張するしな。
「そんな琴葉のために今日はこちらの品を用意してきました」
「ふふっ。なにそれ、テレビショッピングみたいだね。マー君はどんな品物を用意してくれたのかな?」
「これだよ。俺だけだと必要ないかもしれないけど、せっかく琴葉が昨日作ってくれたからな。有効利用しようと思って持ってきたんだ」
そういって鞄から取り出したのは、小さな機械だ。
鞄から出し手のひらの上に乗せ、そこでスイッチを入れて起動する。
すると、その機械はダンジョン内を小さな音をたてながら浮かび上がった。
「それって、ドローン?」
「正解。昨日、琴葉の【錬金】で魔力バッテリーを作ってくれたからな。今日はレベリングもそうだけど、その魔力バッテリーのことも検証しようと思って持ってきたんだ」
「へえ。これ、結構いいね。自分の頭よりも高い位置から前を光で照らしてくれるんだ。頭のライトだけよりも遠くが見えていい感じじゃないかな?」
「だな。ダンジョン内でのドローン使用はありっぽいな」
俺がダンジョン内で使った機械というのはいわゆる小型無人航空機とも呼ばれるドローンだ。
小さなプロペラが付いていてしっかりと空中を飛ぶことができ、しかも旋回性能も高い。
ついでに速度も出そうと思えば時速百キロ以上出せるタイプのものだった。
こいつは本来であれば大体三十分ほどでその電池は無くなってしまう。
だが、通常の電池ではなく魔力を取り込んで電力を供給することができる魔力バッテリーならば稼働時間が伸びるかもしれない。
ちなみに、ドローン以外にもバッテリーを魔力バッテリーへと変換したスマホを持ってきており、それに【収集】を使って魔力を集めると「充電中」という表示記号が画面に出ているので、ドローンのほうも充電できているはずだ。
あとはどの程度稼働時間が伸びるかどうかが知りたいところだろうか。
そんなドローンだが、ダンジョン内で飛ばして遊ぶためだけに持ってきていたわけではない。
一つは暗闇の中の視界確保のためでもある。
ドローンにもLEDライトがついており、空中から俺たちの前方を照らしてくれているおかげで見やすくなっている。
あとは動画撮影もできる。
そして、このドローンにはもう一つ大きな機能が備わっていた。
「あれ? もしかして、それってこのドローンの位置が表示されているの?」
「そうだ。こいつは俺が持つ発信機からの信号をキャッチしつつ、周囲の物のこともセンサーで把握して自動追尾で飛んでくれるAIを搭載しているんだ。で、そんなドローンとアプリの地図を連動させることで、ダンジョン入口から歩いてきた道順や現在地を表示させることができる。このダンジョンに何回か来たけど、自分の位置が手っ取り早くわかるってのはすっごく助かるんだよ」
最近のAIの性能はすごいのだ。
飛んでいる際の速度や角度、センサーによる周囲の地形把握。
それらの情報を活用することで、割と正確な位置をドローンは把握できる。
そして、その機能をアプリの地図と連動させることで自分の位置の特定までできてしまう。
というか、なんならこのダンジョンの地図のない未開エリアもドローンを使えば新たな地図を作製してしまえるかもしれない。
迷子になりやすいこの空間でもドローンの機能を使えば怖くない。
今までは稼働時間の短さゆえに持ってきていなかったけど、魔力バッテリーでの使用時間延長ができればこれ以上ないほどの恩恵を得られることだろう。
そんな頼もしい新たな相棒と一緒に俺と琴葉は左回りでダンジョン内を進んでいったのだった。
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