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職業

 探索者ライセンスは運転免許証と似ている、といわれることがある。

 教習所に通うように、何度も講義を受け、ダンジョンについての基礎的な知識を得る。

 そうして、探索者ギルドで簡単な試験を行ったうえで、初めて仮ライセンスを受け取り、ダンジョン内部へと赴くのだ。

 教官付きでダンジョンに入り、そうしてそこでも教えを受け、その後初めてのモンスター討伐を行う。

 こうして、初のダンジョンでのモンスター殺しを経て、新たな力を得るというわけである。


 これにより、ダンジョンから帰還後には【鑑定】によってどの【職業】を得たのかが受講者もすぐにわかるし、なによりも国がしっかりと情報を把握できるということなのだろう。

 こんなふうに制度化されているおかげで、俺がライセンスを得るまでにはそれなりに時間が経過してしまっていた。

 だが、ようやく俺はライセンスを得るに至った。


「待たせたな、琴葉」


「ううん。いいよ、マー君。それで、いい【職業】につけたのかな?」


「……いや、俺の【職業】はハズレかな。琴葉みたいには当たりを引けなかったよ」


 ギルドの教官と一緒に洞窟みたいなダンジョンに入り、小動物のようなモンスターをその手にかけて俺は異能の力を手に入れた。

 だがしかし、だ。

 ライセンスを取得するまでにある程度期間がかかり、その間、少なからず俺の心の中にも期待が膨らんでいたというにもかかわらず、俺はハズレを引いてしまった。

 あまりにもショボい【職業】であったために、がっかりしてしまっている。


「そうなの? なんていう【職業】だった?」


「【運び屋】だよ。琴葉の【錬金術師】みたいなレアでもない、数の多い雑用係の【職業】だな」


「【運び屋】か〜。え、えっと、私は別にそれでも悪くないんじゃないかなーって思う、よ? だって、どんな【職業】だったとしても、これでまたマー君と一緒にいられるんだから」


 気落ちした俺を慰めるようにそういう琴葉。

 まあ、そう言ってくれるだけでも救われる。

 べつにいいはずなんだ。

 幼馴染とはいえ、年齢の違いと学生か否かの生活習慣の違いで、俺たちは以前ほど顔を合わせる機会というのはなかったからだ。

 ダンジョンをきっかけにまた顔を合わせる口実ができただけでも、いいのは間違いない。


 が、それでもやはりダンジョンという不思議なものに飛び込む決心をしたのだから、俺ももう少しロマンを感じる【職業】を得たかった。

 【運び屋】はさすがに面白みにかけるのではないかと思ってしまう。

 これがゲームならリセマラを間違いなくしているところだろう。


「ま、しょうがないか。文句を言ってもどうにもならないんだろうしな。俺はおとなしく、琴葉のために荷物でもなんでも運ぶことにするよ」


「えへへ。ありがとう、マー君。【運び屋】さんは重たい荷物も運べるようになるって聞いたことあるから、一緒に素材集めに行けるよね、きっと」


 ダンジョン内部には基本的にモンスターが存在している。

 ライセンス取得時にはさして危険のなさそうな小動物系のモンスターが相手だったが、当然、危険なものがたくさんいるのだ。

 ダンジョンに行くのであれば、できれば戦闘職とよばれるようなもののほうが当然よかった。

 それらの【職業】を得た者というのは、ダンジョン内での戦闘で活躍しやすく、未知の領域にも分け入っていくことがしやすいからだ。


 ただ、【運び屋】だから戦えない、というわけでもない。

 どんな【職業】であっても殴る蹴るはもちろん、武器を持てばモンスターに攻撃することはできる。

 ダンジョンはすでに日常の、リアルな存在となっている。

 戦闘職でないからといって、一切戦えないというわけではないのだから。


 なので、気持ちを切り替えてこれからのダンジョンライフを楽しむことにしよう。

 とりあえずは、護身用の武器や身を守る装備、それと講習で聞いた必要品を準備して【錬金術師】である琴葉と一緒にダンジョンに行ってみよう。

 俺の次の休日に一緒にダンジョンへと潜ることを琴葉と約束し、どこのダンジョンへ行くのかあれこれと話し合ったのだった。

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