職場にて
「おはようございまーす」
「おう、おはようさん」
琴葉とのクラン立ち上げを決めた翌日。
この日も俺は仕事だ。
朝から職場に出て、事務所に入る。
なので、探索者ギルドに行ってクラン設立の申請書を提出するのは夕方になってからになるだろう。
俺と琴葉の署名を書いた書類は鞄の中のファイルに挟まっている。
事務所に入ったら、着替えを済ませる。
女性職員が周囲にいないことを確認してからTシャツ姿になり、作業着を着こんでいった。
女性はいないが男性は数人いる。
その中にいつも世話を焼いてくれる緒方さんもいた。
「ん? どうかしたのか、如月?」
「いえ。……ちょっと緒方さんに仕事のことで相談があるんですけど」
「あん? どうしたんだ? なにかトラブルでもあったのか?」
「違いますよ。そうじゃなくて、なんというか……。俺、もっと仕事頑張って覚えたいんです。だから、緒方さんにはこれからもいろいろ教えてほしくて。できれば、緒方さんの持つ経験、俺に分けてくれませんか?」
「……ははぁ。如月、お前さては女ができたな。いやー、若いっていいな。いいぞ。わからんことがあればなんでも聞いてこい。俺がいくらでも教えてやるぞ」
「うす。ありがとうございます」
俺が緒方さんにそう答えると、近くにいたほかの先輩たちも同じように俺に声をかけてくれた。
この職場は俺が一番若いからだろうか。
年上の気のいい人が多く、俺も面倒見てやるぜ、みたいなノリで仕事を教えてやろうと言ってくれる。
まあ、半分以上は緒方さんが言った、俺に女性の影がある、ってところに食いついたようだが。
人によっては結構えぐい下ネタをぶっこんできたりしたので、あまりそこに深入りされたくもないし、軽めにスルーしつつも仕事を教えてくれることに関してはお礼を言う。
当然だが、この一連の話は裏がある。
というのは、俺のスキルの熟練度をあげられないかということにあった。
【錬金術師】がダンジョンに潜らずに地上でポーションを作っているだけでもスキルレベルは上がる。
ということは、【運び屋】も日常生活で重たいものを持ち運ぶことで【重量軽減】や【体力強化】が鍛えられることを意味する。
そんな熟練度を俺だけではなく、周囲の人からも【収集】できないだろうかと考えたのだ。
さきほどの一連の流れは【収集】する際に同意をもらうための話だったというわけだ。
俺以外の人はダンジョンの探索者になっていないと聞いているから、ほかに【運び屋】がいるわけではない。
それに他人から熟練度を【収集】し、自分の肉体に集めることができるかどうかは分からない。
が、これもやってみて損はないことだと考えたのだ。
もし、うまくいけばダンジョンに潜る夕方以降だけではなく、日中も効率的にスキルを鍛えられるかもしれない。
そんな期待が俺の中にあった。
それともう一つは普通に仕事にやる気を見せる意味もある。
もしもほかの人からの熟練度の【収集】ができなくとも、自分で荷物を運ぶという行為は間違いなく熟練度が発生し、スキルレベルの向上につながるはずだ。
なので、同じ時間を過ごすのならばよりスキルのレベルを上げたい俺は、なるべく重い荷物を何回も運びたかったのだ。
だが、何も言わずにそれをすれば止められるかもしれない。
なので、最初からやる気満々の姿勢を見せておこうと考えたわけだ。
実際、これはうまくいった。
俺が積極的に先輩社員の分の仕事を奪うようにして荷物を運ぶと、普通に感謝されながらもアドバイスをもらえた。
今までよりもさらに効率的に荷物を運べるようになっているのではないかと思う。
あと、昼休憩の時にみんなからジュースや食べ物の差し入れをもらえたので、がっつりと食べることもできた。
ちなみに、昨日の時点で上がったスキルは今日の仕事でかなり活躍してくれた。
【重量軽減Lv4】と【体力強化Lv3】のおかげで腰を痛めている緒方さんの二倍以上は働いたのではないかと思う。
だが、それでもまだまだ余力があった。
あまりに張り切って俺が仕事をしまくったためか、定時よりも早く、荷物運びの仕事が無くなってしまうくらいに動き回ることができたのだった。
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