M&K
「もー。マー君がダメってばっかり言うよ〜」
「駄目に決まってるだろ。さすがに簡単に身元や住所が特定されるような要素をクラン名に入れたらだめだよ、琴葉」
「じゃあ、マー君はどういうクラン名ならいいの?」
「そうだなあ。さっき琴葉が出した案から参考にしたやつだけど、『M&K』とかならまだいいんじゃないかな。お互いの名前のイニシャルを合わせただけだけど」
「ううー。可愛くないよ〜」
「まあ、とりあえず仮称ってことで。クラン名は後から手続きすれば変えられるはずだし」
「わかった。じゃあ、そうする」
琴葉との話し合いの末、俺たちのクラン名が決まった。
思った以上に長い時間がかかってしまった。
というのも、クラン名を考えていた琴葉の案に俺がことごとく反対意見を出してしまったからだ。
だが、それは琴葉も悪いと思う。
なぜかクランの名前に俺たちの名を入れたがったからだ。
それを却下すると、今度は住んでいる土地や一緒に通ったことのある学校名にちなんだものにしようとしたりしたのだ。
妥協案として二人のイニシャルを入れることでとりあえずけりが付いた。
そんなわけで、ようやく俺たちのクランを設立できる。
すでにパソコンで表示させた公式ホームページの中のクラン設立申込書を印刷したものがあったので、それにクラン名や構成員の俺たちの名前を書き込んでいく。
明日にでも探索者ギルドによった際に提出すればいいだろう。
「でも、私は今もよく分かってないんだけど、結局クランって何をするところなの? マー君が持って帰ってきた素材を私が使っても問題ないってことだけがメリットなの?」
「とりあえずはそれが一番大きいかな。でも、このクランの本質は琴葉を守ることにある」
「私を? どういうことなの?」
「琴葉は昨日ポーションを作っただろ? 俺が持ち帰った魔石とレンタルスペースから持って帰ってきた薬草を使って、思った以上に質の高い薬を作り上げた。その時に思ったんだけど、もしかすると琴葉は注目を集める可能性がある。それを防ぐためのクランでもあるんだ」
琴葉は八等級ポーションを作った。
ライセンスを取得して間もない【錬金術師】であるにもかかわらずだ。
昨日の時点で俺もあまり意識していなかったが、実はこれは結構すごいことらしい。
基本的に【錬金術師】は当たり【職業】と言われるだけあって、日本全体で見ても総数が少ない。
そして、そんな少ない【錬金術師】はたいていの場合、どこかに所属している。
国、あるいは大企業、有名な研究所などなど。
高給で雇われる【錬金術師】が作り出す効果の高いポーションは市場に出まわることが少なく、それゆえに今でも需要が供給を大きく上回り非常に高値で取引されているのだ。
そんなところにまだ学生である琴葉が探索者になってすぐに【調合】のレベルを上げていると知られたらどうなるだろうか。
出来上がったポーションを見ただけでは、なぜ品質の高いものを作れたのかまでは推測できない。
俺が【収集】を使って魔石のレベルを上げているなんてことは知らずに、琴葉が【錬金術師】としての才能を豊富に持っていると考えられても不思議ではないだろう。
もしかすると、良からぬ連中に狙われるかもしれない。
企業にスカウトされるだけならいいかもしれないが、悪い連中が寄ってきて自分たちのためにポーションを作り続けろと言ってくるかもしれない。
そうでなくとも、会う人に毎回声を掛けられるようなことがあれば琴葉にとってもストレスになるだろう。
ゆえに、クランを隠れ蓑にする。
琴葉個人が自分の名前を使って高品質なポーションをギルドに売りに行かず、クランの名前でやったほうが特定されにくいのではないかと思ったのだ。
まあ、それもどこまで効果があるかは分からないのだけれど。
「ううん。そんなことないよ。私のためを思ってのクラン設立だったんだね。ありがとう、マー君」
「いや、お礼を言われることじゃないよ。俺自身のためでもあるしな」
クランを作ることは琴葉のためでもある。
それは間違いない。
が、俺自身のためでもあった。
というのも、俺と琴葉はどちらが稼ぐ力を持っているのかといえば、百倍以上琴葉のほうが上なのだ。
【運び屋】である俺はせいぜいダンジョンに潜って素材を運び出すことしかできない。
だが、【錬金術師】である琴葉ならば、それらの素材を使って新しいものを作り出すことで大きな付加価値を生み出せる。
ゆえに、お金を手に入れやすいのは【錬金術師】である琴葉だ。
今後、琴葉がさらにレベルを上げて高品質なポーションを生み出し、お金を稼いだ時、同じクランならば俺にもその収益を回してもらえるだろう。
クランは会社ともたとえられるからな。
クランでの収益から構成員にそれぞれ給与みたいな形でお金を渡せば、俺がただ単に琴葉に魔石を売りつけるだけよりも格段に儲けが出るのだ。
ようするに、俺も琴葉に目を付けて利用しようとしている一人と言えるだろう。
許してほしい。
なんだかんだで、ライセンスを取ってダンジョンに潜り始めるまでにかかった金額が大きくて、俺もお金が欲しいのだ。
そんなわけで、琴葉のためといいつつ、自分のためにも俺は二人が所属する【M&K】というクランを作り上げたのだった。
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