クラン
「【錬金Lv5】か。【収集】の恩恵はありそうだね」
「うん。多分あるんじゃないかな?」
それまでレベル一だった琴葉の【錬金】というスキルは十個の魔力蓄電池を作り出したところで五にまで到達していた。
すでに俺の持つどのスキルよりもレベルが高い。
なんかちょっと悔しい気がしないでもない。
十個の魔石を五個ずつに分け、【錬金】を使う。
その結果、五個目の段階ではまだレベル二だったのが、【収集】でスキル使用時に発生するかもしれない熟練度を回収し、琴葉の体へと収めることで最終的に五にまでなった。
レベルはだんだんと上がりにくくなるだろうし、おそらく【収集】の効果は発揮されたものだと思う。
まあ、これまで琴葉が探索者ギルドの建物にあるレンタルスペースでいろんな素材にスキルを使用していたのが今になって花開いたという可能性もないわけではないのだけれど。
「レンタルスペースには高レベルな素材って置いていないんだっけ?」
「そうだね。ひとつひとつ【鑑定】をしてから【調合】とか【錬金】をしているんだけど、だいたいの素材はレベル一桁前半だね」
「ってことは、普段レベル一のくそ雑魚モンスターを倒している奴が二十前半のほどほどに強いモンスターを一気に倒してたくさんレベルが上がった、って可能性もあるわけだな。まあ、もうちょっと検証が必要ってことだ」
現時点でははっきりと断言できるというものはなにもない。
が、結論を急ぐわけでもないか。
なにか締め切りがあるわけでもないし。
「でも、よかったのかな? 手ごろな電池がないからって、あるものをどんどん実験の材料に使っちゃったけど」
「いいよ。問題なし。っていうか、それも明日にでもダンジョンに持っていって使えるか試してみるよ」
【収集】によるスキル使用時の熟練度獲得実験。
その結果ははっきりしたものではなかったが、得たものはあった。
それは魔力バッテリーだ。
俺の家にあった充電式乾電池に魔石を使って魔力をもとに電気を発生させる電池が出来上がった。
この電池がどういう仕組みなのかはさっぱりわからん。
【錬金】したことでよくわからない未知の物質になってしまっているのだろう。
だが、これは【鑑定】が魔力蓄電池であるというので電池として使えるのは間違いない。
なのだが、俺の家には十本もの充電式乾電池がなかった。
なので、途中からは別のものを魔力バッテリーとして生まれ変わらせていたのだ。
スマホ用のモバイルバッテリーや、以前使っていて今はサブ機となったスマホのバッテリーそのものも魔力蓄電池に【錬金】してある。
それでも数が足りないということで、家に転がっていたドローンのバッテリーにも【錬金】をしてしまった。
とりあえず、家の中で確認した限りではこれらはすべて機器の動作が可能であった。
が、従来の充電器では充電ができていないみたいだ。
電気ではなく魔力で充電するのだから当然と言えば当然だろうか。
コンセントにつなげての充電はできず、専用の魔力充電器を作る必要があるのだろう。
まあ、先ほども琴葉に言ったがダンジョン内で魔力を魔力バッテリーに【収集】できないか試してみるつもりだ。
「ま、とりあえず今できる実験は終わりかな。で、ようやく本題なんだけど、琴葉にお願いがあるんだ」
「あれ? またその話? さっきも言ったけど、【収集】のことなら誰にもしゃべらないよ」
「ああ、ごめん。違うんだ。それはあくまでも前提条件ってだけだ。情報を漏らされたらこれから言うお願いの意味がなくなるってだけで、本題はそれじゃない」
「あ、そうなんだ。じゃあ、マー君のお願いってどんなことなの?」
「琴葉には俺とクランを組んでほしい」
「……クラン? ってなんだっけ。一緒にダンジョンに行くパーティーってこと?」
「違うよ。クランはどっちかっていうと会社みたいなものかな。実は今更なんだけど、クランを作っておかないとまずいことになるんだ。主に金銭的な意味で」
俺が琴葉に求めるもの。
それはクランへの加入だ。
それもすでにあるどこかのクランではなく、俺と琴葉が一緒に作るクランに二人とも入ることをお願いした。
というのも、俺はダンジョン内で得た素材を自宅へと持ち帰って、それを琴葉が使っている。
実はこれは厳密にはアウトだ。
ダンジョンで得られた素材を反社会的勢力が悪用しないように国は対策をしている。
そのため、ギルドで売却せずに持ち帰った素材であっても、それを他者に渡した場合にはきっちりと収支報告をしなければならないのだ。
ようするに、俺が魔石などの素材を琴葉に渡して、琴葉がそれを使って何かを作り、俺がそれを使う場合には、物の受け渡しが発生した時点でその都度お金を払わなければならない。
今みたいになあなあでやるとまずいのだ。
が、それは社会秩序を守るために必要な行為であるかもしれないけれど、探索者にとって大きな事務負担につながりかねない。
仲間同士で素材の共有ができなければ、困ることも出てくるからだ。
そこで、国は探索者がクランを作ることを認め、そのクランに加入した者同士であれば素材を共有することを認めている。
なので、今後も俺たちが同じようにやり取りしていくためにはどうしてもこの手続きが必要となるのだった。
「なるほどー。じゃあ、クランを作っちゃおうー。名前はなんにしようかなー?」
ちなみにクランは一度加入するとそれなりに制限がつく。
クランの構成員が犯罪を犯したら、共犯扱いされるケースもあるだろうし、クラン全体の資産の差し押さえみたいなこともある。
なので、本来ならば加入するクランはしっかりと見極めねばならないし、加入させるほうも加入希望者が犯罪に手を染めないか、染めていないかを確認する必要がある。
が、琴葉はそんなことを一切気にせず、俺とクランを組むことを認めてくれた。
もちろん、俺は犯罪行為をするつもりはないし、琴葉もしないだろう。
ただ、もう一度その辺の法律はしっかりと確認しておこうかな。
知らずに罪を犯していたなんてことが無いようにしようと心に決め、琴葉がクラン名を決めるのを眺めていたのだった。
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