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エネルギー

「えっと、それじゃあ始めるね。今日マー君が持って帰ってくれた魔石はレベルが十五から二十一までのが十個あるから、半分ずつで試してみる感じでいいのかな?」


 【鑑定】でも見えないスキル熟練度なるものが本当にあるのかどうかを確かめる。

 そのために、琴葉の【錬金術師】としてのスキルを使うことにした。

 スキルを使う素材としては俺が持ち帰った魔石だ。

 スライムの核を【収集】し、その魔石にダンジョン内の魔力を集めたことで、取得時よりもレベルが上がったものを複数用意している。

 ただ、もともと魔石を手に入れた段階でそれぞれにレベル差があり、それを俺がダンジョン内では把握するすべがなかったことで、そのままレベル差がついたままだ。


 正直、どのくらい検証としての情報が得られるかがわからない。

 ぶっちゃけ、俺も琴葉も頭がいいわけではないしな。

 学校の勉強ができないというわけではないけれど、テスト対策しなくても地頭の性能だけで楽々高得点をキープできるなんて芸当は無理だ。

 なので、持ち帰った十個の高レベルな魔石を使ってスキルを使い、レベルがどう変化するかを検証するという恐ろしく単純な方法になってしまった。

 レベル上昇ごとに次のレベルアップまでに必要な熟練度が加速度的に上がってしまう場合だったらうまく検証できない気もするが、それはもう仕方がない。

 あくまでも、俺の【収集】が他人の熟練度にも影響を及ぼすことができるかどうかの確認程度にしかならない前提で始めよう。


「最初は【調合】でポーションを作ってもらうつもりだったけどすでにレベルが上がった状態だと分かりにくいかもな。まだレベル一の【錬金】スキルで試してみるか」


「魔石を材料に【錬金】を使って何か作るってことだよね? なにか作ってほしいものとかあるかな?」


「うーん。ぶっちゃけ【錬金】についてよく知らないしな。検証のためだからなんでもいいといえばいいんだけど、せっかくならあって損のないもののほうがいいか。何がいいかな……」


 【錬金Lv1】で作れるもの。

 これまでに俺が琴葉に作ってもらったのはスリングショットの玉だけだ。

 ダンジョンで取れたという金属を使って【錬金】したことで、それなりに頑丈で重ための玉ができた。

 これのおかげでダンジョン内でも気兼ねなくスリングショットを使えるし、スライムやダンジョンの壁とぶつかってできた細かな傷もすぐに直してもらえている。

 が、これ以上玉があってもな、という感じだし、なにより金属の玉と魔石を組み合わせてもたいしたものができないだろうと琴葉は言う。


「あ、そういえばあれはどうだ? 前にネットで産廃扱いされていた魔力バッテリー」


「魔力バッテリー? ああ、魔力蓄電池のこと?」


「そうそう。たしかダンジョンができて最初のころに有望視されたけど、結局いらない子扱いになったやつ、あっただろ?」


 魔力蓄電池、通称魔力バッテリー。

 それは【錬金術師】が用いるスキルを経て、魔石からエネルギーを生み出す装置だ。

 世の中にダンジョンが登場して未知の物質が手に入った。

 それを回収するだけでも世界中に大きな影響を与えはしたが、人類が求めたのは産業革命以来文明に必要不可欠なエネルギーのほうだった。


 ダンジョン由来のものからエネルギーを得られれば人々の生活はさらに豊かになる。

 そう考えるのはどこの国も共通だったようで、それからしばらく後に発見されたのが魔力バッテリーだ。

 魔力を原料に電気を発生する夢の装置。

 それができたのだ。


 が、その後、この魔力バッテリーは使えないものとしてどこの国からも見放されたそうだ。

 電気の元となる魔力を補充するのに魔石が必要で、その魔石を安定的に大量に確保し続けるのが大変だったからだそうだ。

 なんせ、スライム程度の魔石では内蔵魔力量が少なすぎて役に立たないらしい。

 かといって強力なモンスターを倒して高レベルな魔石を確保するのはコストがかかりすぎる。

 国が求めるものは全国に停電を起こすことなく安価に供給し続けられる能力のエネルギーだった。


 ちなみに、エネルギー問題が別方向で解決されたことも魔力バッテリー衰退の理由の一つだったりする。

 それは事故が懸念される原子力発電所をダンジョン内に作ったり、あるいはすでに地上にある原発から出される使用済み核燃料をダンジョンに捨てるというものだった。

 現時点ではどんな処理を施しても放射性物質が環境に与える悪影響が大きすぎると問題になっていたが、この方法により一挙に解決したというわけだ。

 人類のいないダンジョンは実はごみ処理場としての活用が一番のエコというわけである。


「えっと、あ、できるかもしれないよ。魔力蓄電池は魔石のほかに充電池があれば【錬金】でできるみたい。でも、それだけだと魔力を補充する機器が作れないから、充電用の部品素材もいると思うけど……」


「別にいいだろ。どうせ実験だし。ってか、もしも実用可能な充電池型の魔力バッテリーができたら、俺の【収集】でそこに魔力を入れられないかを確認するよ。もしできたら、ダンジョン内でLEDライトの稼働時間を延ばせるかもしれない」


「あ、そっか。F-108ダンジョンは真っ暗なんだったね。じゃあ、マー君の役にも立つね。それじゃあ、作るよ」


 こうして、琴葉は【錬金】スキルを用いて魔力バッテリーを作り始めた。

 一つ作るごとに琴葉自身に【鑑定】を用いてスキルの変化を確認しながら、六個目の魔石を使い始めるときからは俺の【収集】での熟練度回収も行い、その影響の有無を調べていったのだった。

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