秘密
「琴葉にお願いがある」
「え、うん。いいよ」
「……おい、真面目な話だ。内容を聞いてもないのに簡単に答えるなよ」
「え、だってマー君からのお願いでしょ? 変なこともないだろうし、なんでも聞くよ〜」
俺は自分がF-108ダンジョンで行った行為により、急激な肉体レベルとスキルレベルの向上を見て、一つの考えが浮かんだ。
そして、それを実現するためには琴葉の協力が必要だ。
いや、別に琴葉以外でもいいのかもしれないが、なんだかんだで俺も知り合いが少ないしな。
琴葉以外に頼める相手が俺にはいない。
なのだが、あまり迂闊に巻き込むわけにもいかなかった。
「実は俺が急激にレベルアップしたのには理由がある。ある方法を使ったからだ」
「あ、やっぱりそうなんだね」
「ああ。で、話はここからなんだけど、もしかしたら琴葉も同じようにレベルを上げられるかもしれない」
「私も? マー君みたいに?」
「そうだ。だけど、その方法を琴葉に対してやるなら、約束しておいてもらわないといけない。俺が教える情報は誰にも秘密だってことだな」
「えへへ。二人だけの秘密ってことかな? でも、それなら大丈夫だよ。私はマー君の言う秘密を絶対に守るよ。昔から私はそういうのはしっかり守るってマー君なら分かっててくれるとうれしいんだけど、信じてくれる?」
「大丈夫か? 絶対ってことは、クラスメイトとか仲のいい友達にも言っちゃだめなんだぞ?」
「分かってる。約束するよ、マー君」
そう言って、琴葉は俺に小指を突き出してきた。
指切りげんまんというやつだ。
これになんの効果があるのかは分からないが、俺も琴葉の言葉を聞いてそれを信じることにした。
突き出された小指に俺の小指を交えさせて、ふたたび約束を交わしあう。
「なら、話そうか。俺のレベルが上がったのはモンスターハウスだけが理由じゃない。【収集】というスキルを活用したからだ」
「【運び屋】さんのスキルだよね。お野菜とかサクランボとかを集めてくれた。確か、魔力精製水も【収集】を使って集めたんだよね?」
「そうだ。ってか、今更だけどそれも内緒ね? 活用法としては似たようなものだし。つまりは、だ。俺はダンジョンに漂う水分とか魔力を【収集】で集めたように、経験値みたいなものを【収集】で集めたんだよ。多分だけど、それが効果を発揮して急激なレベルアップを果たしたんだと思う」
「へえー。【収集】で経験値を集めるなんてやり方があるんだね」
「まあ、できなくてもデメリットもないだろうと思って試しただけなんだけどな。ただ、できた。で、それならほかの可能性もあるじゃないかと思ったんだ」
「どういうこと?」
「俺は経験値を【収集】して自分の肉体に回収したんだ。でも、思い出してくれ。お野菜ダンジョンで俺は琴葉が採取した野菜を一緒に【収集】したりしていただろ。ってことは、琴葉の経験値も【収集】対象になるんじゃないかと思ってね」
「ええ!? そんなことできるのかなぁ?」
「分からない。だから、これから試させてほしい。ここに【収集】で魔力を集めた魔石がある。これを使ってポーションを【調合】してほしい。そのときに、琴葉の経験値、あるいはスキル熟練度みたいなものを琴葉の体に【収集】できないかどうかやってみたい」
本当なら、琴葉もF-108ダンジョンに連れて行ってスライムを倒したりしたほうが同じ条件になって分かりやすいのかもしれない。
そのほうが肉体レベルも上がるだろう。
だが、この場ですぐに試せる方法として、【調合】をしてもらうことを考えた。
ダンジョン内ではない日常生活空間でも【調合】というスキルのレベルが上がるのは昨日も目の前で見ていた。
なので、スキル熟練度なるものがあるとすればこの場、つまり俺の家の部屋でも存在するはずだ。
それを【収集】し、琴葉の体の中に収める。
それによってスキルレベルがさらに上がるのであれば、【収集】というスキルの力が証明できるのではないだろうか。
【運び屋】の俺だけではなく、身近な人も高効率で肉体、およびスキルレベルを上げられる、と。
その可能性を確かめるためにも、俺と琴葉は実験を開始したのだった。
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