自戒
「モンスターハウス? 駄目だよ、マー君。危ないことしないで」
「いや、大丈夫だよ、琴葉。ちゃんと安全マージン確保して行動しているからさ」
F-108ダンジョンにいた大量のスライムがいるモンスターハウス。
そこでの戦闘を終えた俺は無事に家に帰ってこられた。
そして、三日連続で琴葉と会う。
帰宅中の電車の中で琴葉からのメッセージがスマホに届いていることに気が付いた俺は、今日あったことを簡単に報告したのだ。
おそらくレベルアップを果たしているはず、という俺のメッセージを見て、じゃあ【鑑定】してあげる、とやってきた琴葉。
その琴葉が俺の話す今日の探索内容を聞いて珍しく怒っている。
「マー君が真面目にダンジョンについて調べて行動しているのはもちろんわかっているけど、それでもやっぱり心配なんだよ?」
「ごめんごめん。でも、本当に大丈夫だよ。あれは間違いなくモンスターハウスって状況だったけど、俺との相性で完全に狩場になっていたからさ」
「ううー、本当に気を付けてよね。私いやだよ、マー君がケガするの」
「……なにかあったのか?」
「実はね、同じクラスの友達が、ほかの人と一緒にダンジョンに潜って、それでケガしたみたいなの。多分、ダンジョンを甘く見ていたんだと思う。マー君みたいにしっかり準備したりしていなかったみたいだし」
「そうか。知り合いに怪我人が出てたのか。その、琴葉の友達は大丈夫なのか?」
「ケガはいいんだけど、もうダンジョンは潜らないかも……。怖いってずっと言っているから」
どうやら、琴葉が怒るのには理由があったようだ。
クラスメイトのケガ、か。
たしかに気にはなっていた。
俺よりも早くダンジョンのライセンスを取りに行っていた琴葉。
俺と一緒にお野菜ダンジョンに行くよりも早くすでに琴葉はダンジョンへと潜った経験があった。
そんな琴葉はクラスメイトと一緒にライセンス取得に行ったとの話だったが、俺がライセンスを取った後にダンジョン探索用の装備を整えている段階になってもあまりきちんとした装備を持っていなかったのだ。
思えば、お野菜ダンジョンでもほかに来ていた人はハイキングに行くかのような軽装の人が多かったように思う。
琴葉のクラスメイトもきっとそうだったのではないだろうか。
ライセンスを取った後、F級という危険度の低いダンジョンに行き、これなら楽勝だとダンジョンをなめたのだと思う。
そして、学校終わりの放課後に大した装備もせずにほかのダンジョンにも行ってみようと誰かが言い出して、それについていき、その中の一人がケガをした。
おおかたそんな感じではないだろうか。
まあ、気持ちはわからなくもない。
ダンジョン探索の準備を整えるというのは結構大変だからだ。
ダンジョン内に着ていく丈夫な服。
荷物を背負う背負子やそれに取りつける鞄。
足を怪我しないようなしっかりとした靴。
杖としても使えて、攻撃にも用いることができる丈夫な棒。
万が一のために攻撃もでき、解体もできるようにとマチェットも用意した。
さらには暗闇の中でも動けるように明るさの強いLEDのヘッドライトやカンテラライト。
そのほか、ダンジョン内で使うためにスマホも実は新しく用意したし、スマホの充電が切れても時間が分かるように耐衝撃性能を持つ腕時計なんかもある。
これらのこまごました装備品はひとつひとつが高級品ではないものの、総額としてみればなかなかのお金がかかっている。
さらに学生では学割が利いたようだが、俺はライセンス取得にも結構な金額がかかっているからな。
わりとダンジョンに潜る準備だけでも散財している。
なので、俺の場合はダンジョンに潜るのが楽しいからという理由以外にも、投資した額分くらいはダンジョンを堪能しようという思いもあった。
ただ、琴葉のクラスメイトやその友達は違ったのだろう。
みんなで一緒にノリでライセンスを取得し、安全確保されたダンジョンに入って調子に乗った。
で、これなら大丈夫だといって、準備を怠った状態でモンスターを倒しにいった。
きっと装備をそろえるということをしていないのであれば、最低限の情報収集もやっていなかったのだろう。
俺も気を付けないといけないな。
琴葉の話を聞いて、そう思った。
この話を聞いて、俺はそいつらとは違う、とはとても言えない。
なにせ、ダンジョンで得た【職業】がハズレと名高い【運び屋】なのだから。
戦闘職とは真逆の【職業】にもかかわらず、単独でダンジョンに入るのは、どう考えても無謀だろう。
どれだけ事前に準備しているといったところで、いまだダンジョンについては未知の部分が多い。
実際、俺はあのF-108ダンジョンでスライムが大量発生しているモンスターハウスが存在しているなんて知らなかったわけだしな。
俺がケガせずにすんでいるのは運がいいだけとも言える。
人の振り見て我が振り直せ。
レベルアップを果たしたと調子に乗ることなく、これからもダンジョンと付き合っていこうと改めて気持ちを入れなおしたのだった。
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