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肉体の変化

 左手に持ったY字型の持ち手。

 その二股に分かれたうちの左の突起の先にある照準器にしっかりと狙いをつける。

 そこまで遠い距離ではない。

 重力によって玉が狙いよりも下に下がるけれど、大きく照準を調整する必要もないだろう。

 照準器の中央にしっかりと狙いを定めた状態で右手の指をゴムから離す。


 パンッと大きな音がして、飛び立ったスリングショットの玉がスライムへと命中する。

 たくさん積み重なっているうちのもっとも表面にいるスライムの核へと命中。

 そのスライムの体がドロリと垂れ下がるなか、俺の鞄には魔石が【収集】され、そして先ほど放った金属製の玉も腰のポーチへと戻ってきた。


 ……大丈夫だ。

 スライム群は攻撃を受けたというのに反撃はない。

 が、さすがに無反応というわけではないようだ。

 倒れたスライムに接する位置にいたほかのスライムがもぞもぞと動く。

 それによってその幾体かのスライムの核の位置も微妙に変わってしまう。


 だが、問題ない。

 あまりにも数が多すぎるためか、スライム群の中でも反応したのは一部だけであったからだ。

 動いていないスライムの核はほかにもたくさんあり、次はそちらを狙う。

 再び放ったスリングショットの玉はまたもや命中した。

 それを繰り返す。

 手のひらに握りこんだ玉を次々とゴムへと当てて引き絞り、発射していく。

 そのたびにスライムの数は確実に減っていった。


 ただ、さすがに数が多い。

 今までは洞窟内をしばらく歩いて探し出したスライムにスリングショットを使うだけだった。

 これほどに連続して発射したことなどないのだ。

 というよりも、スリングショット自体、昨日から採用して使い始めただけで今まで使ったことなどなかった。

 なので、俺は知らなかった。

 続けて何度も撃つことで、これほど筋肉を酷使するということを。


 スリングショットはまっすぐ伸ばした左腕とそれとは逆方向に大きく引き離すようにゴムを引っ張る右手の動作が必要となる。

 やるまでは腕の力が重要そうだと思ったりもした。

 が、実際には一番大切なのは背中の筋肉だ。

 背筋をしっかりと使わないとそもそもゴムを引っ張れないし、腕だけの力に頼ると照準がぶれやすく命中率が下がってしまう。


 そのため、俺はひたすら背中の筋肉を使うことになったわけだが、これはある意味で筋トレみたいなものだろう。

 チューブトレーニングとかいうのだろうか。

 自宅でもできる簡単筋トレ動画、みたいなもので似たような感じのがなかっただろうか。

 何度もスリングショットを撃つごとに俺は疲れを感じてきてしまった。


 こんな調子でまだまだいるスライムを倒すことができるのだろうか。

 ちょっとだけ、頭の中に不安がよぎる。

 軽く息も弾む感じになり、体力も消耗している。

 が、途中でその状況に変化が現れた。


「……なんか、軽い? いや、軽くなったのか?」


 スリングショットで狙いを定める瞬間、それまでよりもゴムを引く動作が軽く感じられたのだ。

 どうしたのだろうか。

 何度も同じ動作を繰り返すことでハイになって重さを感じにくくなったのかもしれない。

 が、もしかするとこれはレベルが上がったのかもしれない。

 感覚的に肉体レベルが上昇したのではないかと思う。


 それまでよりも強くゴムを引くことができ、それでいて手がプルプル震えたりしないため照準がぶれることもない。

 そんなことを感じながら玉を発射すると、明らかに今までよりも強力な玉がスライムへと到達しその核を撃ちぬいた。


 間違いなくレベルが上がったのだと気が付いた。

 そして、それまで弾んでいた息も多少落ち着いていることにこの時になって気が付いた。

 レベルアップは肉体だけでなくスキルもだろうか。

 【体力強化】もスキルレベルが上がったのではないかと思う。


 唐突に訪れた肉体の変化に、俺は戸惑いつつも次第に順応し、そのままさらに強力な攻撃を続行することができた。

 おかげで途中で感じた不安はすぐに過去のものとなり、それからしばらくあとには、俺はモンスターハウスの中にいたスライム群をすべて倒すことに成功したのだった。

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[一言] \(^O^)/やったー スライム、撃破~
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