討伐後の大変さ
真っ暗闇の中を慎重に歩いていく。
その道中で発見したスライムをスリングショットで狙い攻撃していく。
このスリングショットだが、二日続けて使用しているからかちょっと慣れてきたようだ。
遠く離れたスライム相手にであっても、なかなかの命中率を叩き出している。
「意外とうまいんじゃないか、俺」
今も顎の後ろまで引きのばしたゴムから右手を離し、玉を放ちスライムへと命中させた。
距離は七メートル。
相手のスライムは粘性の液体である体を持ち、その内部にスライムの核がある。
大体こぶし大程度の大きさの核にビー玉くらいの玉が命中した。
その衝撃によってスライムの核はその液体から弾き飛ばされて地面に転がった瞬間に、俺の鞄の中へと【収集】される。
ついでに放った球も回収し、いつでも再利用可能な状態だ。
スリングショットは銃などと比べれば各段に性能の劣る武器だろう。
むしろ日本ではおもちゃとしての認識が強い。
だが、海外では実際に動物の狩りに使用するところもあると聞くし、競技として腕を競い合うことも結構あるらしい。
競技としてだと十五メートル先に三センチ程度の的を置いて命中率を競ったりすることもあるのだとか。
もちろん、それと比べれば俺の腕前はまだまだだろう。
が、このダンジョン内で限って言えばスライムは五メートル以内に近づかない限りこちらを認識して動いてこない、ただの的だ。
公式大会の半分の距離で的の大きさも大きいからか、初心者の俺でもしっかりと倒せている。
が、俺だって分かっている。
この方法はあくまでもこのダンジョンで相手がスライムだからこそ通じるものだ。
これが例えば、どれだけ弱くともウサギなどのように動く相手であればうまくいかないだろう。
命中率なんて一割にも届かないはずだ。
できればさっさとスライムを倒して肉体レベルをあげていきたい。
そうすれば、もう少し違う相手に違う武器で戦うこともできるだろうし。
「まあ、けど、倒すモンスターがスライムだってのは、楽でいいんだろうけどな」
これから一生ダンジョンでスライムを倒す生活をする。
まさかそんなことはないだろう。
が、それでも当分の間はこのスライムを相手にしていくことになるだろう。
というのも、意外とダンジョン内ではモンスター討伐後の処理が大変である、という問題があるからだ。
このようなダンジョンと聞くと、だれだってゲームのようなものを想像するだろう。
俺だってそうだった。
それほどダンジョンについて興味を持っていなかったときには、なんとなくゲームにあるようなシステムでイメージしていたからな。
ダンジョン内に徘徊するモンスターを倒して、経験値を得てレベルアップを図る。
そうして、倒したモンスターからは素材を得て金銭を得る。
だが、これはあくまでも現実に現れたダンジョンだ。
ゲームのように親切設計では決してない。
当たり前の話だが、モンスターを倒したところでお金をドロップする、なんてことはあり得ないのだ。
それにアイテムを落とすということもないようだ。
スライムを倒してポーションが手に入るということもないらしい。
さらに言えば、倒したモンスターから素材を得るというのもゲームとは全然違う。
例えば、ゲームや物語であればダンジョン内に現れたモンスターを倒したら、その死体は光の粒となって消え去り、あとにはドロップ品が残されている。
そんな光景をイメージするかもしれない。
けれど、そんな現象は世界中に現れたダンジョンのどこであってもないとのことだ。
モンスターを倒せば死体はその場に残ることになる。
なので、そこから素材を得るには自分たちで手に入れなければならないのだ。
倒したモンスターの牙や歯、骨や毛皮、血液、あるいは鱗とかもあるだろうか。
そんなものを解体したり、剥ぎ取りしなければならない。
さらに言えば、鮮度が大切な素材であればその場で適切な処理をしなければならないのだ。
これが実にめんどくさい。
なので、俺は最初にお野菜ダンジョンでウサギを追いかけたが、もしあの時倒せていたとしてもきちんと持ち帰れていたかは微妙なところだったのだ。
まさか、倒したウサギの死体を袋に詰めて電車で帰宅するというのもな。
そばのギルド建物では解体や処理をしてくれるところもあるようだけれど、それだって倒してから持ち帰るまでの時間で肉の質が変わるだろう。
というか、肉が傷んでしまわないかのほうが重要かもしれない。
最初から肉を目的とするのであれば、クーラーボックスくらいは持っていくべきだろうか。
そんなこんなで、モンスターの素材を手に入れるというのは大変なのだ。
なので、国は基本的にモンスター討伐にそこまで力を入れていないのではないかとの話だった。
国としてはどちらかというと鉱石などの資源のほうが良いのかもしれない。
輸送車が入れるダンジョン内で現実的に利用がしやすく価値のある資源を持ち帰る。
そのさいに襲ってくるモンスターがいれば戦う必要があるが、モンスター討伐が目的にダンジョンに入るわけではない。
逆に民間では象牙の密漁みたいな感じでモンスターを狙う者もいるらしい。
大型で価値のある素材を持ちながらも、武器や【職業】、あるいは【スキル】の効果で倒しやすいモンスターを倒して、素材を持ち帰る。
その際に、解体なんて面倒なことはしない。
現実に密漁者が象を殺しても牙だけを切り取って死体は放置する写真を見たことがあるが、あんな感じだ。
ほしいところだけ取って、あとは放置。
ダンジョン内でもそんな風にすることがあるらしく、国外で銃を使用する国なんかはそうやって素材を得ているとネットにあった。
それがいいか悪いかは関係なく、俺はどちらの手段も取れないだろう。
国が探索者用に公開しているダンジョンは大体が歩いて入るタイプらしいし、強いモンスターを安全に倒す戦闘力や武器を持ち合わせてもいない。
そんなことからも、スライム退治は非常にやりやすかった。
洞窟内が暗いのは不便だが、解体する必要もなく、倒した瞬間にスライムの核を【収集】で回収できるというのが大きい。
むしろ、暗い中でスライムの核を探し回るのは嫌だとこのダンジョンの人気がないが、【運び屋】である俺にとってはほかの探索者が少ないというのもメリットになる。
「え、なんだここ?」
というわけで、さらなるスライムを探して洞窟内を歩くこと十数分。
さらに数体のスライムを倒して先へと進んでいた俺は、それまでにない光景をこのダンジョンで見ることになったのだった。
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