余力
「うーん。やっぱり違うものなんだな」
琴葉とこれからもダンジョン関連の経験を積んでいこうと話し合った翌日。
この日も俺は朝から仕事だ。
職場ではいつもどおりに荷物を運んでいる。
が、そんないつもの光景であるはずがそれまでとは違っていた。
それは俺のスキルのレベルが上がったからだ。
【重量軽減Lv2】になっていた。
昨日はダンジョンから荷物を持ち帰る際にはそのスキルレベルアップの違いをあまり実感していなかったが、今日は違う。
やはり、普段から慣れ親しんだ作業のほうが違いが分かるのかもしれない。
倉庫で持ち運ぶものというのはだいたいの大きさで重さが分かる。
ある程度規格化されているからだ。
なので、その荷物の大きさを見てどのくらいの重さかを推測しながら俺たちは力を入れて持ち上げるのだ。
だが、そのときに、今までよりも軽く感じるようになっていた。
ほんの少しなので、違いとしては数パーセントといったところではないだろうか。
けれど、一日を通しての仕事であるとその違いが大きく変わってくる。
「おう、お疲れさん。今日はさらに頑張っていたな、如月」
「あ、お疲れ様です。緒方さんはちょっと腰、痛そうにしていましたね」
「ああ。もともと悪いからな。ただ、今日はいつもより違和感があってな。腰が悪くなりそうな予感っていうのか、そんな感じだ。お前が俺の代わりに何度か重たいものを持つのを助けてくれたから助かったよ。これ、お礼のコーヒーだ。飲んでくれ」
「わあ、いいんすか。ありがとうございます。俺は最近調子いいんで、これからも腰が痛いときには言ってください」
「悪いな。助かるよ。けど、昨日も言ったが無理しすぎるなよ?」
「分かってますよ」
腰に巻いていたコルセットを少し緩めて、ふーっと息を吐きながら椅子に腰を下ろす緒方さん。
まだ本当に悪いところまではいっていない、とか言っているのだがかなり悪そうだ。
そんなおじさん社員の代わりに荷物を運んでいた俺だが、スキルのおかげで仕事終わりでもまだ余力があった。
これならば、連日で仕事終わりにダンジョンに行っても大丈夫だと思う。
そう判断した俺は再びこの日もF-108ダンジョンへと行くことにした。
昨日も来たこのダンジョンだが、しばらくはここに来ようと考えている。
基本的な装備をロッカーに預けたというのも理由の一つだ。
人気のあるダンジョンであれば、それに付随する探索者ギルドの建物も利用者が多く、いつでも荷物を預けられるとは限らないからだ。
だが、暗闇で洞窟型のこのダンジョンは見通しの悪さが嫌われているのか、人気はない。
なので、いつでも気軽に荷物を預けておけるというのが気に入った。
ついでに言えば、昨日の俺が発見した手法をこれからも使っていくつもりだからだ。
スライムをスリングショットで安全に倒して魔石を得る。
その魔石にダンジョン内にある魔力を【収集】することで、通常よりも高レベルの魔石を手に入れる。
さらに、ダンジョン内の水分も【収集】することで魔力精製水も持ち帰るつもりだ。
俺の家で部屋の中で水分を得てもただの精製水だったことを考えると、間違いなくダンジョン内には魔力があるのだろう。
職場からの帰り道で寄りやすいし、なによりほかの人からだと暗いし、【収集】するものが目に見えないので知られる心配もないだろうしな。
ただ、ダンジョン内を歩く方向はちょっと変えてみようかなと思う。
昨日は洞窟の壁を常に右手が触れるように回る右手法で移動していた。
が、今日はその反対の左手を壁にする左手法で行ってみようと思う。
昨日と同じように、暗い洞窟内をスライムがいないかどうか目を光らせながら探索を開始したのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけけますと執筆の励みになります。




