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実験

「それがどうしたって言っても、ただのスライムの核っていうか、魔石なんじゃないのか?」


 琴葉が気になるといって差し出してきたものは魔石だ。

 本日の俺の戦利品の一つ。

 見た目的にはほかの魔石とそう大差がないと思う。

 スライム退治の時にスライムの核をスリングショットの玉で撃ちぬいているので、衝撃で欠けたりもしているのですべての魔石の形も不揃い。

 なので、俺はどうしたのだといわれても一瞬戸惑ってしまった。


「ほかの魔石よりもこの魔石だけ【鑑定】したときに表示されるレベルが高いの。もしかして、この魔石を採った時だけ、ダンジョンの奥深くにいってスライムを倒してきたりとかしたのかな?」


「いや。別にひとつだけ奥で手に入れたってわけではないけど。って、ああ、そうか。もしかしたらあの実験の結果かもな。その魔石だけがレベルが高いのか? それ、どの袋に入っていたやつだ?」


「これだよ。他のと違って一つだけ別の袋に分けて入れてあったやつ」


 なるほど。

 そういうことか。

 琴葉と話していて俺はその魔石について心当たりが付いた。

 真っ暗闇の洞窟型のダンジョンに入り、周囲に気を配りながらスライムを探して移動していたので、もともとそんなに奥深くまで行ってはいない。

 琴葉の言うような一体だけのスライム討伐のために奥へと進むなんてことはしていなかった。


 だが、琴葉が【鑑定】した魔石の中でそのひとつだけは突出してレベルが高かったのだという。

 たしか、お野菜ダンジョンでも素材によるレベル差はあった。

 同じ場所に生えているニンジンなどでも個体差があり、レベルの高いものや低いものがあった。

 けれど、それでも一個体だけ突出してレベルが高いというわけではなかったので、なぜ俺の手に入れた魔石にはそんな特別な魔石があったのか疑問に思ったのだろう。


「基本的には【収集】した魔石は全部同じ袋に入れていたんだけどね。手に入れた魔石の一つを別の袋に入れて、実験していたんだよ」


「実験? 魔石で? え、それならそのマー君の実験でこの魔石はレベルが高いの?」


「その可能性はあるかもね」


「それってすごいよ、マー君。スライムの核が素材の魔石はどれもレベルが低めだからあんまり高く買い取ってくれないけど、この魔石みたいにある程度レベルがあれば価値が付くんじゃないのかな? 素材レベルの高い魔石は【錬金】でも重宝されるし」


「へー。魔石にも個体差があってレベルが違う。で、レベルが違うと【錬金】とかの生産系のスキルで作れるものにも影響があるってこと?」


「もちろんだよ。それにレベルの高い素材を使ってスキルを使ったほうが、スキルのレベルアップが速くなるんじゃないかって話もあるみたい。まあ、これは未確定情報だし、結局たくさんやるのが一番だって今日会ったベテランそうな人も言っていたんだけど」


「なるほど。なら、それは琴葉にあげるよ。レベルアップにつながるならそれを使って何か作ってくれたほうが売るより役立つだろ」


「いいの、マー君?」


「いいよ。高く売れるって言ってももともと二束三文で売られる魔石だからな。それに、俺の実験が成功していたんだとすれば、また同じような魔石が手に入るはずだし」


 今回の探索で俺が得た魔石のレベルというのはほとんどが一から五くらいだったようだ。

 だが、一つだけ十八レベルのものがあったという。

 なぜそんなことになったのか。

 それは俺の【収集】スキルの実験が原因ではないかと思う。


 その実験を思いついたのは小休憩を終えた後の話だ。

 【収集】スキルが自動でいろんなものを鞄に回収すること。

 そして、その回収する鞄はスキル使用者である俺の任意で変えることができること。

 そのことを改めて意識した俺はこう思ったのだ。


 べつに鞄に【収集】しないといけないわけじゃないよな、と。


 そう思った俺はその場でできる実験をした。

 小休憩の際に持っていた水の入ったペットボトル。

 その水をすべて勢いよく飲みこんだのだ。

 そうして手に残るのは空のペットボトルだけ。

 その空のペットボトルを【収集】による回収先へと指定したのだ。


 もちろん、ペットボトルに石を集めてもしょうがない。

 なので、【収集】するものは空気中の水分とした。

 といっても、当たり前だが空中に水が浮いているわけではない。

 あくまでも、水蒸気というか気体の中の水分というか、H2Oというか、そんなものを回収するようなイメージをしたのだ。


 その実験の結果はすぐに出た。

 空だったペットボトルの中に水が現れたのだ。

 もちろん、ペットボトルが満杯になるほどではなくごく少量だったが、それで十分だ。

 【収集】は一度自分の中で設定することで、その後は歩きながらでもゆっくりと水が溜まっていく。


 このことから、【収集】は回収先が鞄である必要性はないということが分かった。

 であれば、魔石はどうだろうかと考えたのだ。

 俺はこの魔石というものがどういうものなのか、実はいまだによく知らない。

 が、【鑑定】でも魔石と表示されるらしいし、アプリでもそう表示されていた。

 ということは、だ。

 魔力、あるいは魔素といったものがダンジョン内には存在しているのではないか。


 そう思った俺は手に入れた魔石のなかで一番形の整ったものをひとつだけ別の袋に入れて分け、その魔石の中にダンジョン内で漂っている魔力を【収集】するように頭の中で設定したのだ。

 ぶっちゃけ、成功率は高くないかもしれないと思っていた。

 むしろ、失敗するだろうとも思っていた。

 だって、俺は魔力を感じたりできていないし、見えもしない。

 というよりも、ダンジョン内で魔力が漂っているのかすら分からないのだから。


 だが、実験は成功したようだ。

 ダンジョン内で【収集】した魔力は確かに魔石の中に取り込めていたようだ。

 そうして、それが思わぬ副作用をもたらした。

 魔石の成長、とでもいうのだろうか。

 素材レベルの高い魔石を手に入れる結果となった。


 思い付きで試してみただけの実験で俺は思わぬ結果を得ることとなったのだった。

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