初レベルアップ
「へー。これがF-108ダンジョンの洞窟で取れた石なんだね。【鑑定】してみたけど、本当にただの石としか出てこないから、【錬金】にも使えないと思うよ」
仕事終わりのダンジョン探索。
ほんの数時間程度の探索を終えた俺は再び電車に乗って家に帰りついていた。
今日は仕事が忙しかったわけでもなく、それほど長い時間ではなかったので九時前には家に着いた。
そんな俺の家で琴葉と会う。
どうやら琴葉のほうも今日は学校終わりに別の探索者ギルドへと寄っていたようだ。
レンタルスペースで【錬金】や【調合】をしていたのだそうだが、俺がスリングショットに用いた玉が役に立ったことをメッセージで伝えたところ、再びそれを作ってくれたのだそうだ。
そして、近所ということもあって渡すために持っていこうかと提案してくれたこともあり、ありがたく来てもらったというわけだ。
だが、さすがにもう暗い中を女の子が移動するのは危ないだろうし、帰りはしっかりと送り届けるようにしよう。
そんな琴葉が今日はどんな探索をしてきたのかと聞いてきたので、【収集】によって鞄の中に紛れ込んだ洞窟型ダンジョンの石や岩を見せた。
【錬金術師】たる琴葉が【鑑定】してくれた結果、やはりアプリによる画像検索と結果は同じだった。
石や岩の中に特殊な金属が眠っているわけでもなく、それゆえに【錬金】に使うこともないだろうということで、無価値ではないかというわけだ。
「【錬金】に必要なものだったらそれは分かるのか?」
「うーん。なんとなくって感じで、はっきりそうだってのは分からないかな。私の場合は【錬金Lv1】だからスキルが使える対象の金属も少ないの。スキルレベルが上がれば、今の私が使えないと判断したものでも【錬金】の材料になるってことはあるかもしれないね」
「なるほどな。そういうところも含めて、いろんなものを【錬金】とか【調合】して、スキルレベルを高める必要があるってことか。ま、なんにせよ、これはただの重りにしかならなかったってことだな」
スキルの使用は感覚によるところが大きいのかもしれない。
複数のスパイスを【調合】しておいしいスパイスカレーを作れるとしても、それを試してみないことには可能かどうかはわからない。
また、このダンジョン産の無価値な石だって、レベルがものすごく上がれば何らかの利用法があるのかもしれない。
が、アプリの情報でも過去に一度も高値で取引されたこともない以上、あまり期待はできないだろうな。
「まあ、けど俺にとっては多少意味があったかもしれないな。俺のスキルレベルが上がっているんだろ?」
「うん。マー君を【鑑定】したら【重量軽減Lv2】になってたよ」
「わざわざダンジョン内で石を背負って歩いた甲斐があったってことかな? まあ、仕事で重いものを持つってのもレベルアップに貢献している気がするけど」
「お仕事でも重たいもの持つんだよね? たいへーん。体はしんどくならないの?」
「大丈夫だよ。重い荷物を持つにもコツがあって、それさえ意識してやっていれば平気かな」
仕事終わりにダンジョンに潜る。
それが影響したのかどうかはわからないが、スキルのレベルがひとつ上がっていた。
【運び屋】の真骨頂たる【重量軽減】のスキルが二に上昇していると琴葉に教えてもらったのだ。
ずっと荷物を背負っていたので自分ではわからなかったが、言われてみれば確かに重さがましな気がする。
多分、ダンジョンで取れた素材を持って帰るために最初よりも総重量が増えていたから気が付かなかったのかもしれない。
もっとも、ダンジョンに潜ったことよりも仕事の影響のほうが大きいのかもしれないけれど。
昨日初めてダンジョンに潜ることになったが、ライセンス取得後から初のダンジョン探索まで少し期間が空いていた。
当然、その間も仕事をしており、重量物を持ったりしていたので、その間の分の累積が関係しているのだろう。
だが、これは素直にうれしい。
スキルレベルが上がるということがわかっただけでも、今後のダンジョン探索のやる気が増した。
仕事終わりにジム替わりにダンジョンに行くという行為は続けられそうだ。
「……あれ? なにこれ? これはどうしたの、マー君?」
「ん? なんのことだ、琴葉? 荷物の中になにか気になることでもあったか?」
「うん。これなんだけど、一つだけ変だよ。これはどうしたのかな?」
俺の体や石や岩。
そんなものを【鑑定】していた琴葉。
彼女はその後も俺の荷物の中身をひとつづつ丁寧に出しながら【鑑定】し続けていたようだ。
きっと、それも【鑑定】スキルをレベルアップさせるべく行う経験値稼ぎなのだと思う。
が、そのなかで琴葉がひとつのものに目を付けた。
スライムの核だ。
十数個あるなかで一つのスライムの核を手にした琴葉が、これはどうしたのか、と俺に問いただしてきたのだった。
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