自動収集
「この石とかってなんだ? ……もしかして、【収集】のせいなのかな?」
小休憩として立ったまま休んでいた俺は背中の荷物の重さに不自然さを感じた。
そのため、一度背負子を降ろして、荷物を確認する。
背負子にはいくつかの鞄を取り付けるようになっていて、そのほとんどの鞄には変化はなかった。
お野菜ダンジョンに行ったときのように地面に座って休憩するためのシートなどを入れたりする鞄。
タオルなどを入れる袋。
そんな探索のために用意してきたものを入れた鞄には気になる点はない。
が、モンスターであるスライムの核を回収するための戦利品の鞄に異物が入っていたのだ。
スライムの核というのは探索者ギルドで魔石として買い取ってもらえる。
少し濁ったような色をしたこぶし大の透明な石だ。
あまりいい値段にはならないらしいが、せっかくモンスターと戦うのだからということでその都度回収するようにしていた。
が、その戦利品を【収集】していれるための鞄にはスライムの核以外に石や岩が入っていたというわけだ。
状況的に考えると【収集】が機能した結果なのだろうと思う。
ただ、スライムを倒したから石が手に入ったというわけではないとも思う。
スライムは粘性の液体が核を中心として動く体をしていて、そのなかに石や岩が浮いているというのはこれまでの探索で見ていない。
なので、スライムを倒したことでその体から石が出てくるというのは考えにくい。
ならば、【収集】を自動にしていたのが理由なのかもしれない。
【収集】というスキルは回収したものを任意の鞄に入れるというものなのだが、実はいろいろ応用がきくのだ。
たとえば、俺は戦利品として得たスライムの核などはそれ用の鞄に収集するようにしているが、武器として使っているスリングショットの玉は別のポーチに収集するようにしている。
一度発射した玉を再び攻撃に用いることができるように、腰につけた小さめのポーチに玉だけを分けて回収するようにしておくことで使い勝手を良くしていたというわけだ。
つまり、【収集】というスキルは回収したものを品物によってどの鞄に入れるかどうかを自分で選べるということを意味する。
何でもかんでも同じ鞄に詰め込んでいくというわけではないのだ。
で、そうなるとスリングショット以外のスライムの核や石、そして岩はもしかすると戦利品という項目としてひとまとめなものとして【収集】スキルは解釈したのかもしれない。
俺は戦利品、つまり、ダンジョンで手に入れられる取得物を鞄に入れるようにスキルを使っていた。
しかも、それはスライムを倒すごとに毎回意識していたわけではなく、取得可能なものがあればスキルの判断で自動で鞄に入れるようにしていたのだ。
ようするに、回収できるものはダンジョン内を歩いている間中ずっとスキルの判断で自動的に回収してくれるように設定していた、ということになる。
ぶっちゃけ、そこまで意識してスキルを使っていたわけではないのだけれど。
「……そうなると、この石とか岩はダンジョンで得られる素材ってことになるのかな。まあ、鉱石がダンジョンで得られるって話もあったはずだし、この石とかもそうなのかもしれないな」
俺にとっては重いだけの石。
それがもしかすると戦利品としてギルドに売れる素材なのかもしれない。
そう思って、すぐにスマホを手にして専用アプリで画像検索を行う。
「……ゴミじゃねえか!」
だが、その結果は無常なものだった。
洞窟系ダンジョンにありふれたただの石としてアプリは認識したのだ。
ぶっちゃけ誰にでも手に入れられるものであり、金銭的な価値としてはゼロだという。
参考価格や相場でもそれがはっきりと示されていた。
石よりも大きめの岩っぽいものも同じだ。
「ま、まあスキルにはお金の価値がわからんだろうからな」
【鑑定】でもそうだと琴葉が言っていたではないか。
ダンジョン産の素材を【鑑定】することでその情報が得られるが、それが人間の社会でどのくらいの金額で取引されるかは全くの別問題だという話だ。
普通の水に価値が見いだされることもあれば、そうじゃないこともある。
ダンジョン内では希少で手に入れにくい素材であっても、それを活用することができる人間がいなければ高く買い取ってもらえないことも多いと聞く。
であれば、【収集】というスキルが自動的に勝手に鞄の中に放り込んでいくものにこういうゴミみたいなものが混じるのはしょうがないのかもしれない。
これからは取得可能物すべてを自動で【収集】するのではなく、たとえばスライムの核を【収集】するようにと個別に設定したほうが良いのかもしれない。
便利なようでちょっと気をつかう必要がスキルにはあるのかもしれないと、俺はこの時思ったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけけますと執筆の励みになります。




