荷物の重さ
「ウサギを狩るよりはだいぶ楽だな」
最初の一体のスライムを倒してから、しばらく時間が経過していた。
小休憩ということで背中の鞄に取り付けていた水筒から水を飲む。
その後に俺は今回のダンジョン探索についての感想を口にしていた。
お野菜ダンジョンでウサギを追いかけているよりは、この洞窟でスライムを倒しているほうが体力的には楽である。
しっかりと気を付けて索敵していれば、移動速度の遅いスライム相手であればほぼ先攻できるのが一番ありがたい。
途中、天井に張り付いていたスライムがベチョッと近くの床に落ちてきたときにはちょっとドキッとしたのだけれど。
この感じでいけば安全に探索と討伐を行うことはできるだろう。
現実に存在するダンジョンという危険な場所に来るのであれば、安全を第一に考えるのは絶対だ。
だが、はたして本当にこれでいいのだろうかという気もしてしまう。
多分だけれど、今日の探索でスライムを十体以上倒しているが、レベルアップはしていないんじゃないかと思う。
【鑑定】してもらわないとはっきりとは分からないが、肉体が強くなったという感じがしない。
そして、このペースでスライムを倒していったとして、どの程度の期間で強くなれるのかもよくわからないのだ。
レベルアップは人によってや【職業】によって早さがまちまちだそうだ。
ゲームのように現在の取得経験値がどのくらいで、レベルアップまであとどのくらいの経験値を得ればいいのかというのが分からないところがネックだった。
【運び屋】が人気がないのはこの辺の事情も関係しているのかもしれない。
モンスターの選別を行えば【運び屋】という非戦闘職でも戦える相手はいるが、しかし、そいつらを倒して強くなるにはあまりにも時間がかかってしまう。
人は強くなれるという実感や経験がなければ行動が続かないのかもしれない。
なんせ俺は仕事終わりの貴重な自分の時間をこのダンジョン探索に使っているのだ。
職場で緒方さんにかけられた言葉ではないけれど、遊びに行くという選択肢だってあるのだ。
真っ暗闇の洞窟の中で無為な時間を過ごしているのかもしれないと頭によぎるだけで、割と精神的にきついものがある。
「せめて、お金になるものが手に入ればいいんだけどな」
強さや成長。
それらが目に見えないとしても、ダンジョン探索でお金を得られるのであれば継続はたやすいだろう。
むしろ、お金稼ぎのためにダンジョンに潜り、ついでに強くなっていくというほうが続けるためには自然な流れだと思う。
だが、今の俺はこのダンジョンで稼げるのだろうか。
多分、相当に難しいだろう。
戦利品は一応ある。
スリングショットを用いて攻撃を行い、スライムの核を撃ちぬいて倒してきた。
その際に俺は自分が放ったスリングショットの玉を【収集】で回収する以外にも、ほかのものも【収集】していたのだ。
それはスライムの核だ。
こいつは魔石という位置づけらしく、探索者ギルドで買取をしてくれる。
してくれるのだが、あまりお高いものではないらしい。
まあ、そうだろうな。
戦闘職ではない俺でも倒せるのだし、もし本当にこれが貴重で高値で買い取られるのであれば、このダンジョンはもっと人気が出ているだろう。
だが、これまでの探索ですれ違ったほかの探索者は数える程度でしかなかった。
お野菜ダンジョンのときとはかなり違う。
「ってか、それにしても重いな。スライムの核だけでこんな重くなるはずないんだけど……」
戦利品について考えていると、急に背負っているものの重さを感じた。
小休憩だったので、立ったまま壁にもたれて水を飲んでいたのだが、それまで意識していなかった荷物の重みを感じてしまったのかもしれない。
もともと、持ってきていた荷物にはそれなりに重量がある。
背負子を背負い、その背負子にいくつかの鞄を積み上げるようにして背負っているからだ。
【重量軽減】スキルがあるとはいえ、重さを感じないわけではないため、知らずに体力を消費していたのだろう。
ゴムを引き絞って攻撃するスリングショットを使うのも背中の荷物の影響で体に負担がかかっていたのかもしれない。
が、それ以上になんだか重く感じる。
気になった俺は、背負子を床に降ろして鞄を調べてみた。
もともと持ってきていた荷物のほかに増えているのはスライムの核だけ。
そう思っていたのだが、違った。
なぜだかわからないが、俺の鞄のなかには大量の石や岩が紛れ込んでいたのだった。
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