スリングショット
F-108ダンジョンで初めて発見したアクティブモンスター。
スライムと呼ばれるそのモンスターに向けて、俺は攻撃を行う。
俺が用意した武器というのは、遠距離攻撃を可能とする武器だ。
スリングショット。
Yの字の形をした持ち手をしており、二股に分かれた突起の先にゴムが付けられている武器だ。
いわゆるパチンコと呼ぶこともあるおもちゃのようなものだろうか。
だが、これも立派な武器になる。
左手でスリングショットをしっかりと握りしめ、腕をまっすぐに伸ばしてスライムのほうへと向ける。
そして、左右の突起についたゴムの中央に金属製の玉をセットして、右手でその玉を包む部分を後ろへと引っ張る。
左手を目線の高さ、そして、右手を顎から少し後ろのほうにまでゴムを引き絞る。
結構な力がいる。
ゴムを引っ張っているだけでも筋力を使うのだが、ここで力を抜いたりするのはご法度で、プルプルと震えてもいけない。
そうなったら照準が定まらないからだ。
しっかりとフォームを固めて引き絞りながら、Yの字の左右の二股のうちの左の突起の上に取り付けられた十字型の照準器でターゲットであるスライムを狙う。
距離的には十メートルあるかないかという感じだろうか。
スリングショットの玉は放物線を描いて移動するために、狙う距離に応じて自分で照準をしっかりと合わせる必要があるために本来であればもう少し近づいて撃ったほうが良いのかもしれない。
が、それはしない。
スライムの索敵範囲が大体五メートル程度であると公式ホームページにあったからだ。
ということは、逆に言えば十メートルも離れていれば相手がこちらに気づくことなく一方的に攻撃を行えることになる。
静かに呼吸し、集中力を高めて、そうして指を離す。
引き延ばされたゴムの力で金属製の玉は前方へと飛ばされ、狙い通りスライムへと向かっていった。
バンっという音を立てて、液体で構成されるスライムの体の中へと玉が飛び込み、そしてスライムの体内にある核へと当たった。
「やったか?」
おもわず、そう呟いてしまった。
あんまりよくないセリフだと聞いたこともあるのだが、ほとんど無意識だ。
だが、どうやらライセンス取得以来の初めてのモンスター討伐に成功したようだ。
遠目からライトに照らされて見えていたスライムの体がドロッと溶けるように崩れていく。
それまでは高い粘性を持ち、ネバネバの状態で壁や床を移動できる体を持っていたのが、ただの水のようになったという感じだろうか。
「……ふぅー」
つい、息が漏れ出た。
遠距離から攻撃できる武器を探していて見つけたスリングショットだが、いい結果を出してくれたようだ。
もともとモンスターに対して海外などでは一般人であっても銃などを使用して戦うこともあると聞いたことがある。
なので、このスリングショットも通用することは分かっていた。
ただ、それでも初めての経験なのでドキドキしていたのだ。
ちなみに、日本でも銃を使おうと思えばできなくはない、らしい。
猟銃免許を取得する、という手続きを踏めばいいからだ。
しかし、実際のところ、銃は管理などにも気を使うし、金もかかるのだそうだ。
スライムを倒すのに銃をぶっ放していると、倒せはするが財布からお金がどんどん出て行ってしまうことになる。
なので、俺が今回チョイスしたのはスリングショットというわけだ。
こいつは、使い込んでいくとゴムの劣化が起こることもあるが、その場合はゴムを取り換えるだけでいいので本体はそのまま使える。
さらにいいのが玉についてだ。
実は今回のダンジョン探索にあたってスリングショットの玉は琴葉にお願いして用意してもらった。
【錬金術師】の琴葉がダンジョンで取れるという重たい金属を探索ギルドのレンタルスペースでもらってきていたというので、それを【錬金】して何個かプレゼントしてもらったのだ。
なので、使い回して玉が傷ついた場合にも琴葉に修理をお願いすればいいだろう。
そう、この玉は銃弾と違って使い回しができるのが一番の利点だ。
それも俺がスリングショットを武器として選択した理由の一つだ。
ゴムバンドで金属の玉を飛ばすだけというシンプルさ。
そして、経済的な負担にもなりにくいのが気に入っていた。
「【収集】っと」
しかし、これは【運び屋】でなければやらない選択だっただろう。
こんな真っ暗闇の洞窟の中で、小さな玉を十メートル先に飛ばして拾いに行く。
それはもはや苦行だ。
LEDライトがあっても探すのが大変だろう。
だがしかし、【収集】というスキルがあれば話が違ってくる。
俺がスライムを倒すために飛ばした玉は俺自身がその場を一歩も動くこともなく回収できた。
腰につけた小さな専用ポーチに先ほど飛ばした玉は見事に回収されて収まっている。
まるで、無限に撃てる弓矢みたいだな。
スリングショットが一撃でスライムというモンスターを倒せる武器であると分かり、俺はさらに次の相手を探して洞窟探索を続行したのだった。
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