トレーニングジム替わり
「お疲れさまでしたー」
「おう、お疲れさん。なんだ、如月。すごい荷物だな。これからどこか行くのか?」
「はい。ちょっと寄り道するところがあるんですよ」
「そうか。まあ、お前の年齢だと遊びたい盛りだろうしな。俺も若いころはヤンチャしたもんだが、あんまり羽目を外しすぎるなよ? 明日も仕事があるんだからな」
「分かってます。それじゃ、お先に失礼します、緒方さん」
倉庫での仕事を終えた俺が事務所を出ようとした際に、出口の外にいた緒方さんと鉢合わせた。
挨拶をしたところ、俺の大荷物をみた緒方さんが声をかけてくれる。
どうやら、おじさん社員である緒方さんは若いころにいろいろ遊びまわっていたようだ。
だが、俺の場合はちょっと違うだろう。
緒方さんのいうようなヤンチャな遊びをするつもりはない。
いや、そうでもないか?
どんなことがヤンチャかってのが俺にはわからないが、仕事終わりにダンジョンに行こうというのは結構あれかもしれないな。
遊びといえるほど、安全でもないが。
そう、俺は昨日の今日で再びダンジョンに行く気なのだ。
そのために、朝から仕事道具だけではなく、ダンジョン用の装備も併せて持ってきていた。
ただ、昨日琴葉と一緒に行ったお野菜ダンジョンに行こうというわけではない。
あそこは、俺の家からはちょっと距離が離れていたからな。
今日は違うダンジョンに行こうというわけだ。
琴葉のカレーを食べる前に検索していたが、俺の家から職場までの間、あるいはちょっと足を運ぶ程度の距離で探してみると、よさげなダンジョンがあったのだ。
気分的にはトレーニングジムに通う感じだろうか。
仕事終わりにダンジョンによって短時間探索する。
それによって肉体レベルとスキルレベルをあげられないかと考えた。
職場から一番近い駅に大荷物を背負って移動する。
ここはいつも利用する駅であり、職場での交通費が支給されているために移動しやすい。
ありがたいことにその駅から家に帰る駅までの途中にある乗換駅で、少し別方向に行くとダンジョンがあるのだ。
しかも、お野菜ダンジョンと同じく危険度の低いとされるF級のダンジョンだ。
レベル上げが目的であるとはいえ、自分の力量は昨日のウサギを倒せなかったことでよく理解している。
強いモンスターが出るであろうダンジョンに行き、バッタバッタとモンスターをなぎ倒せればそれでいいのだろうが、現実的には無理だ。
なので、わざわざ国が公表してくれている危険度でお野菜ダンジョンと同等程度のダンジョンへと向かうことにした。
もっとも、このダンジョンはお野菜ダンジョンのような人気はない。
いや、おいしい野菜や果物が手に入るお野菜ダンジョンのほうが特殊なのかもしれないけれど。
「ついたな。ここでまずは荷物を預けないとな」
電車に乗り、乗り継ぎをして到着した駅から少し歩いた場所にあるダンジョン。
そのそばまで来た俺はそのF-108ダンジョンにある探索者ギルドへとやってきた。
ダンジョンに入る前にこの探索者ギルドの建物で荷物を預けるのだ。
俺と同じように仕事帰りの夕方から夜にかけてダンジョンに入る人というのはいるようで、お金さえ払えばロッカーを借りられる。
ちなみに、ここに日常的に通いたいのであれば探索用の装備はロッカーに預けっぱなしにしておけば今後も仕事帰りに寄りやすいだろう。
今日の探索の結果次第ではそれも検討しようと、ギルド建物に用意されている更衣室で着替えを済ませ、ダンジョンに持ち込まない荷物をロッカーに押し込んでいく。
昨日も着ていた丈夫な服に防具としてのプロテクターを手や足に装備し、背負子を背負って複数の鞄をそれに乗せる。
今日は琴葉がいないソロでのダンジョン探索ではあるので、本来で言えばそんなに鞄はいらないだろう。
なにせ、目的はモンスター討伐なのだから。
だが、今後も琴葉やほかの探索者と一緒にダンジョンに潜ることがあるかもしれない。
そういうときに、【運び屋】としての役目もこなせるようにと思って荷物の装備も持ってきたわけだ。
そして、今日は昨日はなかった武器も用意している。
俺が【運び屋】として持っているスキルを活用しつつ、モンスターを倒しやすいのではないかと思う攻撃用装備。
それが通用するかどうか、ワクワクしながら、ギルド建物内にあるダンジョン入口からダンジョン内へと入っていったのだった。
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