倉庫仕事
「おーい、如月。次はこっちのも頼む」
「わかりました」
琴葉と一緒にお野菜ダンジョンへと潜った翌日。
まだ学生の琴葉と違って俺のほうは仕事がある。
つまり、昨日は休みであり、今日は仕事のある日ということだ。
とくにダンジョンへ行ったことで疲れたわけではないが、俺の生活は完全に日常に戻されていた。
「……やっぱりちょっと軽い、かな?」
だが、ライセンスを取得して探索者となったことは決して無意味ではない。
それは俺の仕事が肉体労働に分類されるものだったからだ。
とある倉庫で荷物を運び出したり、しまい込んだりすることが主な業務なのだ。
荷物を持って移動して回る。
つまり、俺はダンジョンで【運び屋】となったことに加えて、リアルでも物を運ぶ仕事をしていた。
現実の仕事がダンジョンで得られる【職業】と関係があるかどうか。
これはダンジョンが出現して以来、ずっと議論にあがってきたことだ。
肉体を使って物を運ぶ仕事をしている俺だから、ダンジョンで初のモンスター討伐を行い【職業】を得られることになった際に【運び屋】となる。
最初に自分の【職業】を見たときには、てっきり俺は両者に関係があるのだと思ったものだ。
しかし、さまざまな研究結果によりリアルの仕事とダンジョンでの【職業】に相関関係はなく、偶然のものである、とされているらしい。
もしも、関係があるのであれば狙った【職業】につける仕事をしてからダンジョンにいけばいいのだろうけれど、そうはいかないのだ。
だからこそ、なのだろうか。
探索者のライセンスを取得するために、俺はそれなりの金額を支払っている。
だいたい、自動車の普通免許を取得するために必要な金額と似たようなもの、といえば分かりやすいだろうか。
教習所なども含めた金額は決して馬鹿にならない額である。
が、国はこの金額を学生であれば割引するとしており、学生かつ未成年であれば一割分の自己負担でライセンス取得が可能なのだ。
琴葉がクラスメイトたちと一緒にライセンスを取りに行ったのは、そういう制度があるためだった。
学生のうちからライセンスを取得し、ダンジョンでモンスターを倒して【職業】を得ておく。
実際の仕事とダンジョンの【職業】がリンクしていないのであれば、さっさとダンジョンに行って【職業】とスキルを得ておいたほうが、それをもとにした将来設計に役立つであろう、というところからこのような制度ができたらしい。
惜しいことをしたな、と思う。
俺だって年齢的にはまだ学生に分類されるし、同級生たちは今頃大学ライフを満喫している。
俺も大学にいく選択肢はあったものの、再婚し海外生活を始める母と違って日本に残ると決めたときに自分で働くことにしたのだ。
そのときはあまりダンジョンに興味がなく、制度もよく知らなかったので完全にスルーしていた。
まあ、そんなわけで高卒の俺は倉庫での仕事に従事していた。
いずれはフォークリフトなどの特殊車両の免許を取ったりと、肉体労働だけではなくなってくるかもしれないが、今のところは力仕事がほとんどだ。
なので、結構大変なのだが、ライセンスを取得してからはその状況が少し変わった。
【運び屋】のスキルのおかげだ。
【重量軽減Lv1】と【体力強化Lv1】というスキルのおかげで、それまでよりも多少しんどさがましなのだ。
【重量軽減】は荷物をまるで持っていないかのような軽さにしてくれるスキルではない。
多分このスキルレベルでは一割も軽減されていないのではないだろうか。
しかし、それでもわずかにでも軽くなればその分の負担は全然違ってくる。
それに体力の底上げもされているため、ライセンス取得以前よりも何往復も休憩を少なくできるようになっていた。
「最近頑張っているな、如月。でも、無理はしすぎるなよ。お前はまだ若いからわからんかもしれんが、この仕事は腰を痛めやすいからな。一度でもやっちまうと、一生響くことになるぞ」
「ありがとうございます。緒方さんも腰悪いって言ってましたよね。気を付けます」
「おう。俺は今もコルセットを腰につけてっからな。荷物を持ち上げるときにはしっかりと腰を下ろして、足で持ち上げるんだぞ」
「了解です」
一緒に作業をしていたおじさん社員の緒方さんがありがたい忠告をしてくれる。
たしかに、持ち方や持ち上げ方には気を付ける必要があるんだろう。
同じ職場でも少なくない人が腰に手を当てる仕草をするのをよく見かける。
だが、それでも最近の俺はとくにやる気に満ちていた。
というのも、このように日常の仕事でもスキルが発動しているということは、スキルのレベルが成長する可能性もあるからだ。
毎日ダンジョンに潜りっぱなしというわけにはいかない。
さすがにそんなことをすれば、生活に困ることになるだろう。
が、普段の仕事でスキルを鍛えられれば、ダンジョンでの活動がしやすくなる。
俺は少しでもスキルのレベルアップを願って、さらに荷物を持ち運ぶ量を増やしていったのだった。
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