スパイスカレー
「な、なにこれ? 琴葉のお母さんのカレーの味を超えたんじゃないか? うますぎるぞ、これは」
「えへへ。そうかな? たくさんあるからもっと食べてね、マー君」
俺の住んでいるマンションの一室。
築十年ほどのこのマンションに俺は一人暮らしをしている。
父が小学校の時に亡くなり、その後、俺が大きくなるまで母は一人で面倒をみて育ててくれた。
その母だが、今は再婚して、相手の男性とともに海外に行っているのだ。
この家は亡くなった父が残してくれた家であり、すでに購入したものだったということもあり、今は俺が一人で住んでいるということになる。
かつては同じマンションに琴葉とその家族も住んでおり、家族ぐるみでの付き合いがあった。
だが、数年前に琴葉の家族が近くの一軒家を購入し、引っ越してしまい、俺の親が再婚して国外に行ったことで少し琴葉との距離が開いてしまったというのもある。
そんな琴葉が昔よく琴葉のお母さんが作ってくれたカレーを俺のために用意してくれたのだが、完全に思い出の味を上回っている。
琴葉の母親のカレーも絶品であり、幼いころから俺は大好きだった。
ある意味で母親の味とも言えるくらいによく食べさせてもらったものだ。
その味を受け継いでいるにもかかわらず上位互換として作り出された琴葉のカレー。
ダンジョン産の野菜を入れたことが関係していたりするのだろうか?
「えっとね。実はちょっとズルしちゃった。お母さんに教えてもらったスパイスはそのまんまなんだけどね。スパイスを混ぜるときに【調合】のスキルを使ったんだよ」
「【調合】? 【錬金術師】のスキルを料理に使ったってことか?」
「うん。そうだよ。私の好きな漫画に錬金術をテーマにしたものがあるんだ。それに書いてあったんだよ。錬金術は台所から生まれた、って」
「へえ。まあ、確かにいろんな素材を掛け合わせるって意味では、複数のスパイスを混ぜるのにも【調合】が有効になるのか。でも、ダンジョンの野菜も関係しているんじゃないのかな? こんなに野菜たっぷりでおいしいカレーってのもなかなかないと思うぞ」
「レベルの高いお野菜をたくさん入れたからかな。カレーを【鑑定】したら、スパイスカレーLv6って表示されてたからねー」
「カレーにもレベルってあるのか。初めて知ったよ」
まじかよ。
そんなのあるんだな。
琴葉は【鑑定Lv1】を伸ばすためにいろんなものに手あたり次第に【鑑定】しているそうだ。
ただ、日常品のものはあまりやっても意味がないらしい。
これはやはりダンジョンにかかわるものでなければならないのかもしれない。
しかし、今回のカレーは違った。
【錬金】というスキルを使ってスパイスを配合したからか、あるいはダンジョン産のニンジンやジャガイモを使ったからなのかは分からないが、琴葉の手作りカレーには【鑑定】ができたのだそうだ。
が、ニンジンやジャガイモは採取してきた中でもレベルの高いものを使ったので、それならばLv10くらいにはなってもよさそうに感じる。
お肉をお徳用のパック肉にしたのがよくなかったのだろうか?
スーパーでの買い物のときにケチらずに高級肉を買えば、また違った結果となったのかもしれない。
あるいは、お野菜ダンジョンでウサギを狩れていればよかったのか。
「うふふ。そんなに気に入ったんだ?」
「ああ。食べても食べても止まらないよ。うますぎる。辛いけど風味とコクがすごくあるし、いくつものスパイスが味に奥深さを与えてくれているっていうのか? ほんとにいくらでも食べられるよ」
「ありがと。そこまでおいしそうに食べてくれたら作った甲斐があったかな。よかったら、また作ってあげようか?」
「うん。ぜひお願いしたい」
「じゃ、また一緒にお野菜取りに行こうね」
俺が一心不乱にカレーを食べる姿を見て、琴葉はニコニコしながらも、自分で作ったカレーをスプーンですくって口に運んでいた。
その後は、お互いにしばらく無言で食べ、お皿にあったカレーが無くなっていく。
俺のほうはといえば、何杯もお代わりをしてしまった。
おなかがパンパンだが、非常に満足感のある食事だった。
強くなる、とかどうでもいいんじゃないか?
これから毎週休みにお野菜ダンジョンにいって食材を確保してきて琴葉に料理を作ってもらえたらそれだけで幸せな気がする。
まあ、琴葉のほうにもいろいろ用事もあるし、それは難しいか。
そんなことを考えながら食後はコーヒーを飲みながらゆったりと過ごしたのだった。
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