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【収集】

 【錬金術師】たる琴葉のスキルは三つある。

 【鑑定Lv1】と【調合Lv1】、そして【錬金Lv1】だ。

 そのうちの【鑑定】を用いることで素材についてのレベルも把握することができるという点でアプリの画像検索よりも優れているだろうか。


 とはいえ、アプリのほうは決して【鑑定】というスキルに完敗しているわけではなかった。

 ダンジョン素材を検索し、既存のデータに含まれていたものであればその情報を表示してくれる。

 それはほかの【鑑定】持ちによってもたらされた情報であるので、一般的な探索者にとって【鑑定】というスキルがなくともそう困らないという状況を作ってくれることにもなっている。

 それとともに、基準となる価格を表示してくれるというのもありがたい機能だろう。


 ダンジョン素材は希少で手に入れにくいものであるほどに高値が付くのは間違いない。

 が、よく取れる素材であっても現実世界に求められるものであれば相応の値段にはなるのだ。

 これは例えばの話であるが、もしも砂漠の国の中にダンジョンが出現し、そのダンジョンに飲用可能な水が豊富にあったとしたらどうだろうか。

 ダンジョン産の水といってもそこらの自然の水と大差ない、特別な効能のないものであったとしても価値が生まれることには間違いない。

 というか、たとえ普通の鉄であってもダンジョンで取れるのであればそれは鉄鉱山が新たに生まれたということにもなる。

 なので、資源の少ない日本という国において、ダンジョン特有の素材でなくとも価値が認められる素材というのはそれなりにあるのだ。


 そういう現実世界での価格の評価や変動を【鑑定】というスキルでは判断できない。

 が、アプリであれば今どんな素材がおおよそどんな値段で買取されているのかが目安としてわかるというのが良いところだろう。

 もちろん、ダンジョン内ではリアルタイムに情報を更新できないので、あくまでもおおよその目安としてであって、実際にダンジョンから素材を持ち帰り売却しようとしたときに思ったよりも安く買い取られる、なんてこともあるみたいだが。


「そういえば、ダンジョン素材であるニンジンやジャガイモって個体差があるんだな。レベルの違いは俺だとみても判別できないだけど」


「そうかな? パッと見ただけでも形とか大きさが一つ一つ違うと思うよ。それに、多分味とかも変わるんじゃないかな?」


「ってことは、レベルの高いサクランボのほうがおいしい、とかってこともあり得るのか」


「多分そうかな〜って思うんだけど、そればっかりは食べてみないとわからないよね」


「だな。っと、サクランボエリアに到着だな。じゃあ、レベルと味の違いの検証もかねて、とりあえずガンガン採取していこうか。こっちの袋に【収集】するからいっぱい採っていこう」


「うん。よーし、たくさんとるぞ〜」


 琴葉の【鑑定】におけるレベルのことも気にはなる。

 そういえば、ダンジョンには薬草があるらしいが、上位のものとして上薬草なんてものもあるらしい。

 それは薬草としての種類が違うのか、はたまたレベルが高いものを上薬草と呼ぶのかどうか。

 ちゃんと知らないので興味深い。

 が、それはそれとして、ようやくお目当てのサクランボがある地点にまでたどり着いた。

 なかなか距離があったが、朝一でここまで来たからか、まだそれなりの数が残っている。

 琴葉が前回来た時にはすでに昼過ぎだったようだが、そのときにはほとんどサクランボが残っていなかったらしいからな。

 レベルと味のことも含めて、なるべく多く採取しよう。


 その採取で役に立つのが【運び屋】である俺のスキルの【収集】だ。

 これは採取したものを自動で収集してくれるというスキルだ。

 例えばだが、ニンジンやジャガイモ、そしてサクランボを地面から引き抜いたり、摘み取った瞬間に指定した袋に入れてくれる。

 いつの間にか手の中にあった素材が袋の中に瞬間移動しているという驚きのスキルだ。


 瞬間移動を可能とするスキル、といえばなかなかかっこいいような気もする。

 が、実際には多少時間短縮してくれるだけの役割に過ぎない。

 のだが、このスキルのいいところは近くにいる同意をした相手の収集物も移動させられるという点にあった。

 つまり、俺が採取する以外にも琴葉の採取したものも指定した袋に瞬時に入れられるのだ。


 俺と琴葉が少しずつ場所を移動しながら木に生るサクランボを根元からちぎるようにして採取する。

 すると、それが次々ときれいなビニール袋の中に収められていく。

 しばらくの間、無心になって採取を続け、袋いっぱいまでサクランボを集めることができたのだった。

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