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愛の告白

 鏑木家の書斎に四人の人間が集まった。

 この書斎はお義父さんの仕事部屋というよりは趣味の部屋らしい。

 俺が住むマンションにもともと住んでいたのを引っ越して一戸建ての家を購入するときに、注文住宅としてわざわざ作ったようだ。

 ただ、父親一人のために広いスペースは確保できないということで、ほどほどの広さの部屋の中に本棚を複数とソファーと机があるのみだ。


 つまり、何が言いたいかというとこの書斎に四人は狭い。

 机を叩いたことによる音を心配して見に来た琴葉とゆかりさんが入ることは難しいくらいだ。

 にもかかわらず、俺の発言を聞いて一番に俺のもとへと来たのはゆかりさんだった。


「まあまあ、今の言葉は本当なの、真央くん? 今日は大切なお話があるからって言っていたけど、この人に挨拶に来たってことなのね?」


 小さな書斎にある机とソファーはそれぞれ一つずつだ。

 つまり、俺はお義父さんと話をしているときに向かい合わせで突っ立っていたことになる。

 そんな俺に向かって飛びつかんばかりに引っ付いて話に割り込んでくるゆかりさん。

 その勢いでお義父さんの気勢がそがれた。

 チャンスは今しかない。


「はい。俺、最近昇進したんです。給料も上がります。琴葉がポーションを作って売らなくても二人で食べていくのも平気です。だから、ゆかりさん、娘さんを俺にください」


「わ〜、わ〜。すてき。まさかもう、こんな言葉を聞く日が来るなんてさすがにちょっと予想外だったわ。もちろんいいわよ。ね、琴葉ちゃん?」


「ありがとうございます」


 場の空気は完全にこちらのものになった。

 先ほどまで激おこだったお義父さんは状況についていけないのか、動きが止まっている。

 琴葉はどうかと視線を送ると、顔を真っ赤にしてうつむいていた。

 ちょっとプルプル震えているけど、どう思っているんだろうか。


 状況に流されて、自分でも想定していなかったことを口走ってしまった。

 が、これは俺の本心から出た気持ちで間違いない。

 自分の父親が小学生の時に亡くなり、母一人の手で育ててくれた。

 母は当時すごく大変だったと思う。

 そんな母が再婚し、その相手と一緒に海外に行くことになった。

 が、俺は日本に残ると主張し、そのために自分一人でも生活できるということを証明したくて、高卒で仕事をすることにした。

 そして、仕事を始めてまだ一年もたっていない。


 いろいろと覚えることも多く大変ではあったが、それなりに毎日のことをこなしてこれたと思う。

 充実もしていたとは思う。

 けど、それでもここ十日ほどの生活と比べるとそれまでの生活はどこか色褪せたものだったようにも感じる。


 琴葉のおかげだ。

 幼馴染ではあったが、ここ数年は疎遠になっていた。

 そんな琴葉からスマホにメッセージが届いた。

 ダンジョン探索者になったというものだ。

 人気の高い【錬金術師】だという。

 だが、そこに嫌なものを見た。

 送られてきたメッセージには写真があり、そこで琴葉は軽そうな男たちと一緒に映っていたのだ。


 動かなければ。

 とっさにそう思った。

 最初は男に対して警戒心のない幼馴染が心配だからだ、と自分の気持ちをそう理解した。

 が、そうではなかった。


 久しぶりに会った琴葉は、それまでと変わらずに俺のことをマー君と呼んでくれる。

 笑ってくれる。

 一緒にいて、話をして、ダメなことはダメと言ってくれた。

 そして、俺の家に来て料理まで作ってくれた。

 おいしい料理を一緒に食べ、将来の夢はパティシエだという話もした。


 今ならば、迷わず言える。

 俺は今の生活が好きなんだ。

 琴葉と一緒にご飯を食べて、琴葉の笑っている姿を見るのが好きなんだ。

 ずっと一緒にいたい。

 そう思った。


「琴葉、俺と一緒にいてくれ。結婚してほしい」


 だから、言った。

 真っ赤になって、うつむいている琴葉に近寄り、頭を下げながら右手を伸ばして差し出すようにして、そう言った。


 琴葉はどう思っているんだろうか。

 さすがに嫌われてはいないだろう。

 いくら幼馴染と言えども嫌いな異性の家に上がりこむ女の子というのはいないと思う。

 が、琴葉の交友関係について実は俺はあまり詳しく知らない。

 もしかしたら、彼氏とか、仲のいい男友達とかいるんだろうか?

 昔からの性格的には琴葉にはいなさそうだけど、それでも女子高生だからな。

 いてもおかしくはない、と思う。


「……う、うん。ありがとう、マー君。うれしい……」


 付き合ってもいない女性の家で、本人ではなくその父親と母親に先に結婚の話をする。

 さすがに暴挙と言わざるを得ない愚行だ。

 もしこれで、琴葉本人に断られれば、下手すると二度と顔を合わせられないことになる。

 クランも解散しかねないだろう。


 が、どうやら俺の行動はいい方向へと向かったようだ。

 真っ赤になっていた琴葉の顔は、今は涙でくしゃくしゃになっていた。

 両手を目の下でゴシゴシと擦り、涙を拭こうとしても、とめどなくあふれてきている。

 そのため、かわいらしい顔がグシャグシャになっているが、それでも笑ってくれていた。

 琴葉が泣きながらも、俺に笑いかけ、告白に答えてくれた。


「許さん。俺は絶対に許さんぞ!!」


 お義父さんが何か叫んでいる。

 が、俺はそれを無視して琴葉へとさらに近づき、ありがとう、と伝えたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 意外と早かったですね
[一言] お父さん、かわいそう……………ww
[気になる点] ラブコメとしては面白くていいが、ダンジョン物としてはチョットどうかなという展開
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