アプリ
お野菜ダンジョンの地面は俺の感覚では変哲のない普通の地面に見える。
なんとなく、イメージでは海外の羊でもいそうな牧場という感じだろうか。
しっかりとした土の上にほどよい短さの芝生が広がっている、といったものだった。
そんな風景の一角にニンジンが生えているらしい。
俺たち以外にもニンジンを採取しようとしている人が結構いた。
地面から生えた草を引っこ抜いてオレンジ色の立派なニンジンを手にしている姿がそこかしこでみられる。
「……これかな? えっと、アプリでも調べられるんだったよな」
ニンジンが生えているらしいエリアに足を踏み入れた俺は、ポケットからスマホを取り出してアプリを起動した。
これは、ダンジョンの入り口のある方向を示してくれるアプリと同じものだ。
ライセンス取得時にインストールすることをすすめられた国が作ったダンジョン探索用アプリだった。
「お、当たりみたいだな。これはダンジョンニンジンで間違いないらしい。じゃ、引っこ抜くぞ」
「あ、じゃあ私が周りの土を軽く掘って抜きやすくするよ。ちょっと待ってね、マー君」
アプリにはいろんな便利機能が搭載されている。
このお野菜ダンジョンのような安全で国が手厚く対応してくれているところであれば、ダンジョンの出入り口を示す方角が表示されていたりする。
そして、もちろんそれだけがこのアプリの機能ではなかった。
その一つの機能で、今俺が使ったのが「画像検索」だ。
土から生えているニンジンと思わしき草の部分をカメラに写すのだ。
そうすると、アプリ内にあるデータと照合して、それがどんな素材かを表示してくれるというありがたい機能になる。
つまり、このアプリを用いてダンジョン内で見つけたものをカメラの画像で確認することで、どんなものなのか、どれくらいの値段で買取ができるのかの目安を知ることができるのだ。
もちろん、この機能は万能ではない。
まず、ダンジョン内ではインターネットと接続できないという問題があった。
電波が届かないから、ネット接続できないため、アプリでのデータ照合はアプリ内に既に登録されたものだけになる。
なので、きちんとアプリの更新を行っていないと、画像に収めた素材がデータとして登録されていなくてわからないというケースもあるわけだ。
また、まだ未発見の素材や国によって秘匿されている情報などはもちろん見ることができない。
あくまでも情報公開されているものに限られているということになる。
が、それでもこのアプリの恩恵は大きいだろう。
ダンジョンに生えているニンジンやジャガイモ程度であれば別に気にはしないかもしれないが、もしも高難易度のダンジョンに潜り、持って帰ることのできる重量的にどちらか一つの金属の塊を選ぶことになったら、といったシチュエーションで役に立つかもしれない。
片方はただの鉄の塊と同程度の値打ちしかなく、もう片方が超貴重なダンジョン産の希少鉱石で値段もそれに見合った額になると一瞬でわかるからだ。
荷物の量というのは限られているのだから、より希少なものを選択できるほうが探索者にとってありがたい。
そして、アプリを作った国にとっても、これを探索者に使ってもらえることには大きな意味がある。
情報収集に役立つということがそうだ。
インターネット非接続のダンジョン内での画像検索であったとしても、ダンジョンを出てインターネット接続状態になればその検索結果をサーバーに集めることができるからだ。
どこのダンジョンでどんな素材が見つかり検索をされたのか、が効率的にわかることになり、そしてその情報を蓄積できる。
また、データに存在しないダンジョン素材の発見にもつながるかもしれない。
なので、この探索者専用アプリはお堅い国が作ったアプリにしては、かなり探索者にとって使い勝手のいいものとなっていた。
「鑑定。あ、こっちのほうがいいニンジンみたいだよ。あれとこれ、それとそっちのを持って帰ろうよ」
だが、そんな便利アプリを俺が使っていると、一緒になってニンジンを採っていた琴葉のほうは自分のスキルを使っていた。
【錬金術師】たる琴葉は実は【鑑定】のスキルを持っているのだ。
素材を活用して錬金するために必要なスキルなのだろう。
アプリの画像検索なんてしなくても、【鑑定】することでこれが間違いなくダンジョンニンジンであると判別できるし、なんならニンジンごとのレベルもわかるらしい。
どのニンジンのほうがレベルが高いと区別し、より高レベルのほうを持ち帰ろうと言ってきた。
もちろん、その提案を断る理由など俺にはない。
琴葉の指示通りに選別された高レベルニンジンを【運び屋】たる俺が鞄に放り込んで背負う。
こうして、ニンジンを採り、そして場所を移動してジャガイモも採取して、ようやくサクランボ目指して更なる移動を開始したのだった。
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