47.曹操との決戦 (地図あり)
建安23年(218年)1月 冀州 魏国 鄴
曹操が鄴に兵を集めるのに対抗して、俺は中原の反乱分子から援軍を募った。
おかげで我が軍の兵力もおよそ18万人と、曹操にさほどひけを取らない規模となる。
そのうえで鄴の郊外に押し出すと、曹操軍も城を出て、野戦の構えを見せた。
「敵もやる気まんまんのようですな」
「ああ、城に引きこもっても、城壁を壊されたら終わりだからな。おそらく曹操じきじきに、指揮を執るんだろうよ」
「フフフ、中原の覇王のお手並み、拝見といったところですな」
我が軍は例のごとく、野戦陣地を構築していた。
兵士たちも慣れたもので、実に手際よく土壁や見張り台が作られていく。
もちろん、敵もそれを見過ごしているわけではないのだが、ガッチリと守りを固めている我が軍に突っこむほど、無謀ではない。
やがて野戦陣地が完成した翌日、決戦の火蓋が切られた。
「突撃~~っ!」
「「「うおお~~~っ!」」」
こちら側についた反乱軍が先走る形で、両軍の距離が縮まる。
双方から無数の矢が飛び交い、それを防ぐ者、傷つく者たちが続出した。
そんな中、中核となる孫紹軍は、いつものように見張り台を駆使した指揮方法で戦っていた。
「中央の圧力が高まっています!」
「魏延を応援に送りましょう」
「それでいい」
「伝令!」
「はっ」
ただちに伝令が動いて、見張り台の上から軍鼓と旗振りで指示が出される。
そしてそれを受けた魏延の部隊が、これまた速やかに動いた。
「ふう、想像以上ですね」
「ああ、敵は死にもの狂いって感じだな」
「それだけ向こうも、危機感を覚えているのでしょう。なにしろここで負ければ、後がありませんからね」
「うちだって、決して余裕があるわけじゃないけどな。しかし戦が長引けば、苦しむのは民だ。なんとしてもここで決着をつけたい」
「もちろんです」
冀州以外の防衛を放棄した曹操には、たしかに逃げ場はないだろう。
それに対して、俺はここで負けても、また華南に逃げられる。
しかしそんなことをしていては、無力な民が困窮するだけだ。
そのため俺は、なんとしてもここで決着をつけるつもりだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
とはいえ、戦況は想像以上に思わしくなかった。
総数では敵の方が多かったし、こちらは反乱軍の寄せ集めであるため、連携も十分でない。
さらにさすがと言うべきか、曹操が直接指揮する敵軍は強かった。
やはり中原で勝ち残った男には、何か特別なものがあるのだろうか。
「う~ん、膠着しちまったな」
「ええ、さすがは曹操です。味方もなかなか集まりませんし」
「しかも司隷からは、夏侯淵が駆けつけるという噂もあります」
状況は膠着している一方で、味方の集まりが悪かった。
どうやら曹操の撹乱工作に踊らされ、反乱分子同士でもめているらしい。
さらに涼州軍閥を鎮圧にいった夏侯淵が、こちらに向かっているとの報告も入っていた。
このままではますます厳しいことになってしまう。
「龍炎の方はどうですか?」
「催促はしているが、まだ時間が掛かりそうだな。極秘でやったのが、裏目に出た」
”龍炎”、つまり火薬爆弾は、豫州の戦いでほとんど使い尽くしていた。
まだ数発は残っているが、それでは戦況を覆せない。
そして火薬の製造は極秘で進めていたため、量産するには程遠い。
なにしろ硝石を採りにいくところから、始めねばならないのだ。
おそらく次に補充されるには、2、3ヶ月は掛かるだろう。
「いや、それは仕方ないでしょう。そもそも龍炎は、軽々に広めていい兵器ではありません。しかしそうなると、こちらも手詰まりですね。敵には天子さまの身柄も、押さえられていますし」
「ああ、それもあるんだよな」
どうやら曹操は鄴に兵を集めるさい、鉅鹿から天子を連行し、城内に軟禁しているらしかった。
おそらく戦況が悪化した場合に、譲歩を迫るつもりなのだろう。
すっかり形骸化しているとはいえ、さすがに天子をおろそかにはできない。
そんなことも含めて、いろいろと手詰まりだった。
結局、その日も結論は出ず、小競り合いで日は暮れていった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
建安23年(218年)2月 冀州 魏国 鄴
その後も戦況は、一向に良くならなかった。
多少は反乱軍の増援があったものの、こちらの指揮下には入らないので、戦力として期待できない。
それに対して曹操軍は、こちらの巧みな指揮に対応するようになり、むしろ押され気味となっていた。
このままでは大きな犠牲を覚悟の、無理攻めしかないかと思い始めていたところ、敵軍に動きがあった。
「敵軍が後退しているだと?」
「はっ、少しずつですが、城の方へ後退しているようです」
「むう、何かあったのか?」
そう言いながら周瑜を見ると、彼も首を横に振る。
「それだけでは分かりませんな。仮に曹操が休戦を求めているとしたら、そのうち使者が来るかもしれません」
「いまさら休戦なんか、望むかぁ?」
「ちょっと考えにくいですね」
そうやって首をひねっていると、本当に敵から使者が遣わされてきた。
白旗を掲げた一団が味方のチェックを受けてから、俺の前に連れてこられる。
「衛尉の賈詡と申します。本日は曹丕さまの命を受けて、交渉に参りました」
「俺が呉王 孫紹だ。待て、今、曹丕どのの命を受けてと言ったな」
さらりと言われて聞き逃しそうになったが、ヤツは曹操ではなく、曹丕と言った。
すると賈詡はすました顔で、重大な事実を告げる。
「はい、曹操さまは昨夜、お亡くなりになりました。そのため曹丕さまが、孫紹どのと交渉をしたいとの仰せです」
「「「なんだとっ!」」」
それはまったく予想もしていなかった、衝撃的な出来事だった。




