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それゆけ、孫紹クン! ~孫策(オヤジ)の夢はオレが継ぐ~  作者: 青雲あゆむ
第2章 中華制覇編

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幕間: 司馬懿クンは驚愕する

 私の名は司馬懿しばい 仲達ちゅうたつ

 河内司馬家の次男である。


 我が兄弟はそろって優秀であるため、”司馬8達”と呼ばれることもある。

 (注:あざなに達の字が入るだけでなく、8人の達人という意味もある)

 そんな中でも特に優秀と言われる私は、当然のことながら曹操に目をつけられた。


 しかし曹操という男、どうにも虫が好かない。

 大した後ろ盾もないのに、この中原を制したのだから、たしかに凄い男なのであろう。

 その英雄性に対して、私の中の自尊心が反発しているのかもしれないな。


 いずれにしろ、最初はヤツの仕官要請を断っていた。

 しかし諦めの悪い曹操は、とうとう強硬手段を持ち出してきたので、やむなく仕官したわけだ。


 その後、幸いにも私は曹丕そうひさまに気に入られたため、順調に出世していく。

 曹丕さまは曹操さまの嫡男だし、いずれは太子になる可能性が高いので、私の地位も安泰だと思っていた。

 しかし中原を制したはずの曹操さまに、楯突く存在が現れたのだ。


 孫権と劉備だ。

 奴らは荊州に攻めこんだ曹操さまに、連合して立ち向かい、なんと撃退してしまったのだ。

 そのうえ益州を制圧して分け合ったり、襄陽までもを攻略してのけた。


 なんとも手強い敵が残っていたものである。

 しかし華南も益州も、この中華においては辺境に過ぎない。

 なのでいずれ、孫権も劉備も討伐されると思っていたのだが、そうはならなかった。


 なんと孫権に代わり、孫紹という子供が当主に立つと、中原に攻め入る動きを見せたのだ。

 そこで曹操さまは華南への守りを固めると同時に、魏王に就任された。

 するとまず劉備が漢中王を名乗り、さらに孫紹も呉王を名乗る。


 劉備の方は大して脅威でもないが、孫紹は侮れない。

 中原には及ばずとも、かなりの軍事力を養っているようだ。

 私の杞憂に終わるといいのだが。




 しかし孫紹の力は、やはり本物だった。

 ヤツは南陽に攻め入ると、早々に新野を落とし、宛ですら攻略してしまう。

 なにやら新兵器を使ったようだが、そのあまりの早さに、兵の手配が間に合わず、南陽を放棄せざるを得なかったほどだ。


 危機感を覚えた私は、曹操さまに劉備の切り崩しを進言し、その差配を任される。

 実際に劉備に接触してみると、思ったとおりだった。

 劉備自体は難しそうだが、宰相の諸葛亮が乗り気だったのだ。


 私は巧みに諸葛亮の危機感をあおり、裏切りの可能性を高めた。

 そして豫州で我が軍と孫紹軍が戦っている時、見事に私の策は成った。

 豫州がまさに落とされようかという時、劉備が南陽を急襲したのだ。


 そこで孫紹は、やむなく兵を退いた。

 あいにくと敵に痛手を与えるほどではなかったが、陽翟ようたくの陥落を防ぐことはできた。

 おかげで曹操さまの覚えもめでたく、私の栄達も約束されたようなものだ。


 しかし孫紹は思った以上に上手く対応してみせ、我が軍の攻撃にも耐えながら、早々に劉備軍を追い返したらしい。

 ええい、劉備軍のなんと不甲斐ないことよ。

 このままでは孫紹の再侵攻を許し、反乱分子どもが勢いづいてしまうではないか。



 そしてその懸念は、見事に的中してしまう。


「曹丕さまが、豫州へ行かれるのですか?」

「うむ、そうだ。私は父上の名代として、豫州へ赴かねばならん。そこで軍を立て直すので、司馬懿にも手伝ってほしい」

「もちろんでございます。全身全霊をもってお支えしましょう」

「うむ、頼りにしているぞ」


 中原の各地で反乱が発生するなか、曹操さまが動けないということで、曹丕さまに豫州への出陣命令が出た。

 次期魏王を戦場に出すなど、曹操さまもよほど追い詰められているようだ。

 このうえは、なんとしても曹丕さまを勝たせて、後継者の地位を盤石にしてやろう。

 そのためなら、どんなことでもやってやる。



 しかし実際に豫州の陽翟に来てみれば、状況は思った以上に厳しかった。

 兵数こそ10万に近いものの、その多くが新兵で頼りない。

 このままでは、この城を落とされてしまうかもしれない。

 それならば……


「司馬懿どの、督戦隊とくせんたいを編成するなどとは正気か?」

「もちろんです。兵どもには死ぬ気でやってもらわないと、この城を保つのも危ういですからな」

「し、しかし味方に刃を向けるなど……」

「そんな甘いことを言っている状況ではないのですよ、夏侯惇将軍。これについては、曹丕さまもご了承ずみです」

「うむむ……」


 実質的な最高指揮官である夏侯惇を説得し、督戦隊を編成した。

 そして逃亡する気配を見せた兵や、手抜きをする者を見つけ出し、厳しく罰したのだ。

 そのままでは士気が低下するので、報奨の増額や、食事内容の改善なども実施した。


 そのうえで当面は守りに徹する方針を示しつつ、被害を軽減する戦術も考えた。

 ただし守るだけでは駄目なので、隙を見ては騎兵を出し、敵を撹乱する。

 さらには敵の新兵器が出そうな兆候があれば、多少、強引にでも部隊を進めて、その組立てを阻止してやった。


 そうやってなんとか時間を稼いでいるうちに、ようやく増援が到着する。

 相変わらず新兵が多いが、我が軍は20万人近い大軍に膨れ上がった。

 このうえは早期に決戦を挑むべきだろう。


「曹丕さま。援軍が到着したからには、早々に賊軍を討伐するべきかと。その際、兵どもに多少のアメを示したいと存じますが」

「具体的にはどんなことだ?」

「はい、戦功への報酬の増額だけでなく、兵の家族への税の減免を提示したく」

「むう……金が掛かるな」

「この際、やむを得ないかと。もちろん、兵が死力を尽くすよう、督戦もいたします」

「よかろう。私の責任で認めようではないか。ただしこの戦、絶対に勝ってくれよ」

「御意」


 曹丕さまに許可を取って、兵への手当てと督戦隊の手配を終える。

 そのうえで我が軍は、全力で攻撃に打って出たのだ。


「我が軍は被害甚大なれど、全方面で優勢。いずれ敵を敗走に追いこめる見込みです」

「ほう、なんとかなりそうだな。さすがは司馬懿だ」

「いえ、まだまだ、最後まで気は抜けませぬ」


 そうは言っているものの、私もほぼ決着はついたと思っていた。

 しかし孫紹には、まだ隠し玉があったのだ。


「敵がまた、新兵器を出してきました。凄まじい音と衝撃で、味方に動揺が広がっています」

「なんだとっ! まだそのようなモノを隠していたのか! どうする? 司馬懿」

「……大至急、督戦隊に指示を出し、逃げ出す者を処刑します。ただし万一の場合も考えられますので、曹丕さまは撤退のご準備を」

「私に兵を見捨てて、逃げ出せと言うのか?!」

「落ち着いてください。そうならないようにしますが、万一のためです。曹操さまもこんなところで曹丕さまが死ぬなど、望んではいないでしょう」

「ぐっ……やむを得んな」


 くそっ、まさかこんなことになるとは。

 いずれにしろ、なんとか撤退を成功させねば。

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