5-7 呼び方
「前から思ってたんですけど、アリサさんはシモン様のことを、『お兄様』って呼ぶんですね」
「昔からずっとお兄様って呼んでたから、他の呼び方するのはむずかしいの」
「あの時に『お兄様!』って叫んでるの見ると、なんだか背徳感があるなぁなんて思ってみたり」
「うー、そう言われると恥ずかしいですの」
2人が仲がいいのは俺としても助かるんだが、ベッドで俺をはさんでそういう微妙な会話をされると、俺としてはどうしていいのやらと……
「このあたりで、呼び方変えてみるってのはどうです?」
俺が口をはさみやすい話題になってきたかな。
「アリサは前に一度チャレンジして、すぐにくじけたんだよな」
「うー、あの時はなんか恥ずかしくて呼べなかったけど、きっともうできますの」
「お、じゃあチャレンジしてみるか?」
「チャレンジしますの。これからずっと、シモンって呼びますの」
「よし、じゃとりあえず今から24時間、一度も『お兄様』って呼ばないこと。
いいな?」
「いいですの。
できたらご褒美として、おに……シモンにたっぷりと可愛がってもらう権利をいただきますの」
「いいだろう。
じゃ、ダメだったら罰ゲームとして、アリサのことを好き勝手にしちゃうからな」
「それって、どっちも日常過ぎて、ご褒美にも、罰ゲームにもなってないんじゃないの?」
ヒルダがなんか言ってるが、それは無視だ。
翌朝、
「シモン、朝なの。
朝食食べたらすぐ出発なの」
お、ちゃんと普通にシモンって呼べてるじゃないか。
俺はすっかり忘れてたぜ。
それからもアリサは、何度も呼び間違えそうに、つっかえていたが、シモンと呼び続けていた。
やるじゃないか。
このまま、呼び方変えれるのか?
そして夕食後、
「勝利までもう少しなの」
「ふふふ、甘いな。
最後の難関が待っているぞ」
俺は有無を言わさずにアリサをベッドに押し倒した。
「くっ、大丈夫なの。
最後まで負けないの」
あの手この手でアリサを攻めてみたが……歯を食いしばって何も言わなくなるのってちょっとずるくないか?
ようし、このまま攻めるのみ!
「……シモン……」
お、最後まで頑張りやがったか。
でも、なんか違和感が。
この時にシモンって呼ばれるのはなんか違うんだ。
「なぁアリサ……」
「お兄様、アリサの負けなの……」
え?
「お兄様って呼べないのは、辛いの」
「いや、ここまでよくがんばった。
俺もアリサからなんかシモンって呼ばれるのは味気なくて。
アリサの勝ちでいいから、もう前のように」
「罰ゲームを」「ご褒美を」
もうどっちでもいいや。
「……お兄様」
ヒルダがなんか蔑んだ目で見てるけど気にしないことにした。




