3-4 夕立ち
山の中を歩いていたところ、突然の夕立ちに襲われた。
雷まで鳴り出したので、雨宿りできるところを探して急いでいたところ、アリサが
「前方に洞窟発見したの。
でも、何かがいるの」
「危険そう?」
「んー、そうでもなさそうなの」
「戦闘準備しつつ、そこへ突っ込むぞ」
「わかったの」
駆けていく途中で、アリサが
「あれ?なんとなく気配が変わったようなの。
こちらに気づいてるみたいなの」
「わかった。
注意していくぞ」
俺を先頭に洞窟へ駆け込む。
アリサはライトの呪文であたりを照らすと、そこにいたものは、小さな黒猫だった。
ただし、真っ赤な目でこちらを威嚇しているし、背中には小さな羽根のようなものもついている。
少なくとも、普通の猫とは思えない。
「ネコじゃないよな、あれ」
黒猫っぽいものから目をそらさないようにしつつ、アリサに確認する。
「たぶん、魔獣なの」
「でもちっちゃいな。子供か?」
「たぶん、そうだと思うの。
でも油断してよさそうな相手でもなさそうなの」
「なかなか難しい場面だな。
倒してしまったほうがいいとはわかってるんだけど、どうもな。
襲われたのならともかく、俺達が押し入ってきてるわけだし」
「魔獣なら、もしかしたら言葉が通じるの。
知能の高い魔獣は多いの」
「試してみるか……
いきなり洞窟に押し入って悪かった。
俺達は夕立ちを避けてここに来ただけで敵対する意思はない」
黒猫は俺の方にじっと視線を向けている。
俺は考えた末、構えていた剣を鞘にもどした。
「そうだ、お腹すいてないか?
魚の燻製とか食べれるかな?」
俺はカバンから魚の燻製を取り出すと、ひとかじりして、
「毒とかはいってないからどうだ、食うか?」
黒猫は近づいてきて、燻製にかじりついた。
どうやら交渉成立のようだ。
「一晩、ここにお邪魔するぞ」
俺達は荷物をおいて、濡れた服を着替えることにした。
火を起こして服を乾かしていたが、さすがに野生の猫と違って火を恐れる様子もない。
「もっと食うか?」
と黒猫に聞くと、
「にゃあ」
と返事がきた。
たぶん、食べるって意味だよな。
俺たちも夕食にすることにした。
夕食後、火のまわりで座っていると、黒猫は俺の膝でくつろぎ始めた。
撫でてやるとゴロゴロと喉を鳴らしている。
こうしてると普通の猫にしか見えないな。
「ねこちゃん、片足ひきずってるみたいなの。
ちょっと見せてみて」
アリサが黒猫を抱えようとすると、フーッと毛を逆立てている。
何故かアリサ嫌われてるぞ。
「むー、こまったの。
しかたないから、そのままお兄様抑えててほしいの」
そういってアリサは用心深く、黒猫の後ろ足の様子を確認する。
「骨折してるみたいなの。
ちょっとだけ痛がると思うから、しっかりと抑えているの」
アリサが黒猫の足の処置を始めると、黒猫は激しく暴れたが俺がそのまましっかり押さえ込んでいるので逃げれない。
最後にアリサはヒールをかけて、
「終わったの。
もう大丈夫なの」
黒猫を離してやると、そのまま飛んで逃げて、最初はアリサを睨んでいたようだが、足が治っていることを認識したようで、アリサのところによってきて、手をペロリとなめて、
「にゃあ」
とかわいらしく鳴いた。
「ねこちゃんと仲よしになれたの」
アリサは自分のヒザに黒猫をかかえると、今度はおとなしくそのままヒザでくつろいでいた。
「最初からヒールとかじゃダメなのか?」
「ヒールは万能じゃないの。
切り傷や打ち身ならヒールすればいいんだけど、骨折にそのままヒールすると骨が変なふうにくっついて、上手く走れなくなったりするの。
これは人間も同じだから注意するの」
「そういうことなのか。
覚えておくよ。
そのあたりも解体しての知識か?」
「ねこさんもたくさん解体したの。
美味しいレシピもいろいろあるの」
それを聞くと黒猫は慌ててアリサのヒザから逃げ出して、俺のヒザへ逃げてきた。
「あーん、ねこさん食べないから戻ってくるの」
雨は上がったようだが、今日はこのままこの洞窟で1泊することにした。




