8-12 勝手に
「結局、どういうことになったのかよくわからないんですが」
ライナがなんか機嫌悪そうだな。
「アリサ、まかせた」
俺がアリサに振ると、アリサは不満げに
「お兄様の回答があっさりしすぎでしたの。
あちらはずいぶん丁寧に話してくれてましたのに。
魔族側の事情としましては……」
「待って!」
アリサが言い始めると、ライナがストップをかけた。
「さすがに事前に話してくれてた内容はわかってるから、長々としたことは省略して。
結局、これからどうすればいいのか、そのあたりを簡単に教えて」
「勝手にしますの」
「え?」
「魔族は会議で言ってたように勝手にするでしょうから、わたしたちも勝手にすればいいんですの」
「そういうことですね」
アリサの答えにリィがそうつぶやく。
「どうしてあなたが普通に会話に参加してるんですか?」
リィがあたりまえのように会話に混ざってるのを見て、ライナはリィにイチャモンをつける。
「勝手にしていいようですので」
リィは悪びれもせずにそう言い切る。
「勝手にしろ」
俺はあきらめ顔でそうつぶやく。
「よろしいんですか?」
ヒルダが俺とアリサを交互に見ながら心配そうに尋ねる。
「話の流れから、リィだけでも受け入れてあげないとしかたなさそうですの」
そういうことだよな。
「すみません、リィさんの持ってるマントだけど、それってルチアさんのマントじゃないんですか?
ヒルダがリィの抱えているマントに気づいてそう尋ねる。
「うん、お父様は不要だからってボクが管理者になってるんだ」
「交渉は決裂ですし、ルチアさんの遺言もあるから、お兄様が受け取るわけにはいかないですの」
「そうだな、返してくるのもなんだろうから、リィがそのまま管理するのがいいんじゃないか?」
「はーい、じゃこれはボクがそのまま使うね」
そう言うと、抱えていたマントをリィは羽織った。
「ところで、リィ。
最初に洞窟で出会ったのって偶然? それともあれもなにか意図的に?」
会議中にわざわざ聞くことでもなかった疑問をあらためて尋ねてみた。
「あれは本当に偶然だったんだ。
いっしょに旅してるうちに勇者って気づいてびっくりしたんだよ」
「あの時以降、俺に監視がついたわけか」
「うん、おにいさまが言った通り、魔族は狡猾だからね。
情報収集は徹底的にやってるよ」
「ほとんど筒抜けだったわけか」
「おにいさまの夜の具合ならもう1人くらい増えても大丈夫そうだなって思ったんだ」
「そこまで監視してるんじゃねぇよ」
ちょっと対策考えないと安心して暮らせないな。
「監視していた限りでは、今日の提案で合意できると思ってたんだけどね」
「結論に関してはすべてお兄様におまかせでしたの。
アリサにはある程度予想できてましたの」
「そのあたりの機微までがまだわからないのが魔族ってことかな。
ボクももうちょっと勉強しないといけないな」




