8-9 人質
「本人の希望でもあります」
「本人?」
「はい、魔王の一人娘であるわたしリィを人質として、勇者シモンのもとへ贈ります」
魔王の一人娘……リィはそういう立場でこの場にいたってわけか。
これは驚いた。
「なかなか意表をついた提案でしたの。
いろいろ考えなければならないと思う提案ですが、できるだけ早く回答させていただくために、デザイストン伯爵のお知恵をお貸し願えませんですか?」
アリサが不死の王に向かって何やら言っているけど、デザイストン伯爵?
「遥か昔の名乗りをお知りとは思いもよりませんでした。
わたしにどのようなことをお望みですか?」
不死の王の昔の呼び名なのか……アリサ、いつの間にそんなことまで。
「リィをこちらの人質に出すことによる、こちらのメリット、および魔王側のメリットを希望しますの。
きっと十分に検討済みと思いますの。
そちらの要望が和平と共存にあるのなら、そちらの考えをすべてお話ししていただけることを望みますの」
アリサ……えげつない要望だな。
不死の王は、魔王の様子を伺っていたが、魔王が無言で首を縦に振るのを確認し立ち上がった。
「よろしいでしょう。
魔王の娘を勇者に人質に出すことについてのわたしの分析を述べさせていただきます。
まず、勇者側でのメリットについてですが、言葉どおりの人質の価値はあります。
魔王が一人娘をどの程度大事にしているかについてはご想像いていただくよりしかたありませんが、魔族と人間との比較論でも肉親の情とおいうものについては同程度であるとだけ言っておきます。
また、リィの存在は魔族のほとんどが魔王の一人娘として認知しております。そのため、勇者のもとにリィがいるということは、魔族たちは勇者殿に対し手は出せなくなります。
現時点では無意味な情報になりますが、勇者一行4人にリィの戦闘力を加えた場合、魔王の戦闘力に並ぶ時期が1年4ヶ月後とほぼ半分になるでしょう。当然のことですがこれはリィが魔王を討つという現時点ではありえない状況のデータになります。
また、ここに来る時にすでに体験されていると思いますが、リィはこの島への転移のための魔法陣を作ることができます。
それにより、いつでも勇者一行はこの島へ来ることが可能となります。
続きまして、魔王側のメリットについての考察です。
これはリィの今後の働き次第という観点が多くなりますが、勇者への心理的影響に期待しております。
魔族への忌避感を減らし、また魔王への肉親的な感情が期待できます。
また勇者個人のスキルによりリィの能力アップが予測させれます。魔王はもとより、魔族の支配者は世襲制ではありませんが、もともと能力の高いリィの能力向上により魔王死後も支配継続を狙えます」
ここまで一気に話した後、不死の王は再び魔王のほうを向いて、
「続けてよろしいですか?」
そう尋ねた。
魔王は、再び静かに首を縦に振った。




