8-8 ルチアの残せし夢
そのマントは古いものであるにもかかわらず、今も輝いているように感じた。
「皆さんのご想像どおりの品です」
ルチアが最後に身に着けていた勇者のマントってことだな。
ということは、ルチアはこの島で亡くなったってことか。
「ルチアさんのその後について、伝わっていることをお話しさせていただきます。
先代の魔王が勇者に滅ぼされた後も、ルチアさんはかろうじて無事だったようです。
崩れ行く魔王城から無事に逃れることができ、マントの効果もあって、傷ついていた体も癒された状態で、この島から脱出しようとはしたそうです。
ですが、その時に島に残された逃げまどう幼い魔族の子供たちを見つけ保護しました。
子供たちを無事だった魔族の集落まで送っていきましたが、勇者との戦いの結果、多くの魔族が死んだことにより、その集落にも多くの身寄りのない孤児ができていました。
ルチアさんはそんな孤児たちを集めて、この島で育てることを選びました。
魔王を滅ぼした勇者の一行であったことでルチアさんはずいぶん迫害されたようですが、そんな迫害も気にせずにそれ以降も多くの孤児達を育てて、この島で生涯を全うしました。
いつしか、魔族の中でも認められるようになって晩年は多くの養子に囲まれて安らかに亡くなったそうです。
そのマントを残してルチアさんは亡くなりましたが、最後にこう言い残しました。
『いつか将来、魔族と人間たちとが手を取り合う日が訪れたら、その時にこのマントを人間たちのもとへ返してほしい』と。
そのマントを受け取った孤児の末裔が当代の魔王になります。
このマントを今、この場で贈ることがルチアさんの遺志にも合っているのではないかと思っております」
魔王の家系って。それってもしや……
「あっ、誤解のないように言っておきますけど、ルチアさんは子供を残しておりません。
勇者とルチアの子孫が魔王とかいうことはないですからね」
……俺の顔ってそんなに読みやすい?
「ちなみに、ルチアさんが勇者の子を身籠っていたかどうかは伝わっておりません。
ですので、身籠っていなかったのか、身籠っていたけど流産したのかどうかは不明です。
その後も、魔族の男性から何名か結婚のお誘いはあったようですが、どなたとも子をなすようなことはありませんでした。
ルチアさんについて伝わっていることは以上となります」
思いがけないところでルチアさんの情報を得ることができた。
「そして、もう1つの贈り物ですが、これは人質となります」
「そのようなものは要らない」
俺は即座にきっぱりと拒否した。




