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世界が七回、裏返る前に  作者: 臥亜


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7/9

願ったのは、誰?

世界は、静かに削れている。


 


三回目で固定された街は、歪だ。


建物の並びが途切れ、

昨日まであった道が“最初から存在しなかった”ことになっている。


 


記録も、地図も、歴史も修正済み。


 


違和感を覚えているのは、僕とミアだけだ。


 


 


「リク」


 


夜。


崩れた広場の端で、ミアが言う。


 


「ずっと変だと思ってた」


 


 


彼女は空を見上げる。


ひびは薄く、しかし確実に残っている。


 


「七回って、あなたに提示されたんだよね?」


 


「……ああ」


 


「“一名消失”も?」


 


「ああ」


 


彼女は黙る。


 


そして、静かに言う。


 


「それ、私には聞こえてない」


 


 


鼓動が止まる。


 


「え?」


 


「一回目。塔の上」


 


彼女の視線が揺れる。


 


「世界が崩れる直前、あなたが何か叫んだのは覚えてる」


 


「でも」


 


「七回なんて言葉、知らない」


 


 


冷たいものが背中を走る。


 


 


「じゃあ……誰に提示された?」


 


 


あの声は。


 


七つの輪は。


 


条件は。


 


 


“僕の頭の中だけ”だった?


 


 


ミアが一歩近づく。


 


 


「ねえ」


 


 


「本当に最初に願ったの、あなた?」


 


 


世界が、わずかに揺れる。


 


 


その瞬間。


 


 


神殿が、勝手に現れる。


 


 


湖の底ではない。


 


広場の中央に、黒い扉が歪んで浮かび上がる。


 


 


声が響く。


 


 


『観測記録、開示』


 


 


目の前に、光の輪が現れる。


 


 


砕けた一つ。


 


ひび割れた二つ。


 


 


だが。


 


 


最初の輪の中心に映っていたのは——


 


 


僕ではなかった。


 


 


瓦礫の中。


 


血を流しているのは、僕。


 


 


その身体を抱きしめているのは、ミア。


 


 


「……は?」


 


 


映像の中で、彼女が泣いている。


 


 


「嫌だ」


 


 


「やり直せるなら、何度でもやり直す」


 


 


空が止まり、声が落ちる。


 


 


『願いを確認』


 


 


七つの光輪。


 


 


提示されているのは——


 


ミア。


 


 


現実のミアが、震える。


 


 


「私……?」


 


 


声が告げる。


 


 


『初回願望主体:ミア』


 


『二次干渉主体:リク』


 


 


理解が追いつかない。


 


 


僕は、二回目から願っている。


 


 


だが一回目。


 


 


最初に世界を掴んだのは——


 


 


彼女。


 


 


ミアが後ずさる。


 


 


「違う」


 


 


「私、そんな……」


 


 


映像が切り替わる。


 


 


一回目の崩壊。


 


 


塔は崩れず、僕が先に落ちている。


 


 


彼女は手を伸ばす。


 


届かない。


 


 


僕が血を流す。


 


 


「怖いよ」


 


 


そう言ったのは、僕だ。


 


 


彼女が叫ぶ。


 


 


「やり直せるなら!」


 


 


世界が反転する。


 


 


僕は、そこで初めて“記憶を持つ側”になった。


 


 


つまり。


 


 


僕は彼女の願いの中で目覚めた。


 


 


 


沈黙。


 


 


ミアが呟く。


 


 


「じゃあ……」


 


 


「私が、あなたを何度も殺してるってこと?」


 


 


空のひびが、わずかに広がる。


 


 


声が冷たく告げる。


 


 


『願望主体の記憶保持は、三回目以降に発現』


 


 


だから彼女は三回目で思い出した。


 


 


僕を守ろうとしていたのは、


 


 


最初から——


 


 


彼女だった。


 


 


 


そして、さらに恐ろしい事実が告げられる。


 


 


『七回目固定時、消失対象は——』


 


 


光が揺れる。


 


 


『願望主体』


 


 


つまり。


 


 


七回目で消えるのは、


 


 


ミア。


 


 


 


彼女が、静かに笑う。


 


 


「ああ、そっか」


 


 


「だから、あなたが消えるって思い込んでたんだ」


 


 


僕は言葉を失う。


 


 


七回目は、彼女が消える。


 


 


それが最初から決まっている。


 


 


そして僕は、


 


 


彼女の願いの中で生きている。


 


 


 


世界が軋む。


 


 


未使用の再構築、残り四。


 


 


このまま進めば、


 


 


七回目で彼女は消える。


 


 


三回目で止めれば、


 


 


世界は削れ続ける。


 


 


 


ミアが、僕を見つめる。


 


 


「ねえリク」


 


 


「あなたは、どうしたい?」

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