願ったのは、誰?
世界は、静かに削れている。
三回目で固定された街は、歪だ。
建物の並びが途切れ、
昨日まであった道が“最初から存在しなかった”ことになっている。
記録も、地図も、歴史も修正済み。
違和感を覚えているのは、僕とミアだけだ。
「リク」
夜。
崩れた広場の端で、ミアが言う。
「ずっと変だと思ってた」
彼女は空を見上げる。
ひびは薄く、しかし確実に残っている。
「七回って、あなたに提示されたんだよね?」
「……ああ」
「“一名消失”も?」
「ああ」
彼女は黙る。
そして、静かに言う。
「それ、私には聞こえてない」
鼓動が止まる。
「え?」
「一回目。塔の上」
彼女の視線が揺れる。
「世界が崩れる直前、あなたが何か叫んだのは覚えてる」
「でも」
「七回なんて言葉、知らない」
冷たいものが背中を走る。
「じゃあ……誰に提示された?」
あの声は。
七つの輪は。
条件は。
“僕の頭の中だけ”だった?
ミアが一歩近づく。
「ねえ」
「本当に最初に願ったの、あなた?」
世界が、わずかに揺れる。
その瞬間。
神殿が、勝手に現れる。
湖の底ではない。
広場の中央に、黒い扉が歪んで浮かび上がる。
声が響く。
『観測記録、開示』
目の前に、光の輪が現れる。
砕けた一つ。
ひび割れた二つ。
だが。
最初の輪の中心に映っていたのは——
僕ではなかった。
瓦礫の中。
血を流しているのは、僕。
その身体を抱きしめているのは、ミア。
「……は?」
映像の中で、彼女が泣いている。
「嫌だ」
「やり直せるなら、何度でもやり直す」
空が止まり、声が落ちる。
『願いを確認』
七つの光輪。
提示されているのは——
ミア。
現実のミアが、震える。
「私……?」
声が告げる。
『初回願望主体:ミア』
『二次干渉主体:リク』
理解が追いつかない。
僕は、二回目から願っている。
だが一回目。
最初に世界を掴んだのは——
彼女。
ミアが後ずさる。
「違う」
「私、そんな……」
映像が切り替わる。
一回目の崩壊。
塔は崩れず、僕が先に落ちている。
彼女は手を伸ばす。
届かない。
僕が血を流す。
「怖いよ」
そう言ったのは、僕だ。
彼女が叫ぶ。
「やり直せるなら!」
世界が反転する。
僕は、そこで初めて“記憶を持つ側”になった。
つまり。
僕は彼女の願いの中で目覚めた。
沈黙。
ミアが呟く。
「じゃあ……」
「私が、あなたを何度も殺してるってこと?」
空のひびが、わずかに広がる。
声が冷たく告げる。
『願望主体の記憶保持は、三回目以降に発現』
だから彼女は三回目で思い出した。
僕を守ろうとしていたのは、
最初から——
彼女だった。
そして、さらに恐ろしい事実が告げられる。
『七回目固定時、消失対象は——』
光が揺れる。
『願望主体』
つまり。
七回目で消えるのは、
ミア。
彼女が、静かに笑う。
「ああ、そっか」
「だから、あなたが消えるって思い込んでたんだ」
僕は言葉を失う。
七回目は、彼女が消える。
それが最初から決まっている。
そして僕は、
彼女の願いの中で生きている。
世界が軋む。
未使用の再構築、残り四。
このまま進めば、
七回目で彼女は消える。
三回目で止めれば、
世界は削れ続ける。
ミアが、僕を見つめる。
「ねえリク」
「あなたは、どうしたい?」




