三回目の世界:彼女が刃を持つ理由
三回目の朝は、雨だった。
目を覚ました瞬間、嫌な予感がした。
世界は静かすぎる。
鏡を見る。
一瞬、映らない。
次の瞬間、映る。
遅れている。
僕の存在が、わずかにズレている。
——二回目の代償。
街へ出る。
人々は普通に歩いている。
空にひびはない。
まだ。
だが僕は知っている。
三回目は、前より早く壊れる。
広場に、ミアがいた。
赤い髪が雨に濡れている。
目が合う。
笑わない。
「覚えてる?」
心臓が、強く跳ねる。
「どこまでだ」
「二回目まで」
呼吸が止まる。
「あなたが、何度も願ってることも」
彼女はゆっくり近づく。
「私が、二回目で飛び降りたことも」
雨音が強くなる。
「なんで止めなかったの?」
「止めた」
「でも願った」
言葉が詰まる。
彼女は小さく笑う。
「やっぱり優しいね」
その瞬間。
彼女の袖から、短剣が滑り落ちる。
冷たい刃。
「今回は、私があなたを止める」
世界が静止する。
「……殺すのか」
「うん」
迷いがない。
「あなたが死ねば、願えない」
正しい。
論理的だ。
「三回目で終わらせる」
彼女が踏み込む。
刃が、僕の喉元へ。
ギリギリで避ける。
雨で足が滑る。
「聞け!」
「聞かない!」
刃が頬を裂く。
血が混ざる雨。
「七回目で固定される!」
彼女の動きが止まる。
「誰かが消える!」
「知ってる」
静かな声。
「だから三回目で止める」
「今ならまだ、あなたが消えない」
胸が締めつけられる。
彼女は、本気だ。
僕を守るために。
だがそのとき。
広場の中央に、ひびが走る。
石畳が割れる。
三回目の崩壊は——
もう始まっている。
空が裂ける。
声が響く。
『観測者二名、衝突確認』
『修正誤差、急増』
ミアの身体が、わずかに透ける。
「……え?」
消えかけている。
「対象、再計算」
声が告げる。
『三回目消失候補——ミア』
世界が傾く。
彼女は僕を見る。
そして、微笑う。
「ほら」
「やっぱり私じゃん」
崩壊が加速する。
今、選ばなければ。
願うか。
願わないか。
僕は、初めて迷う。
彼女を救うために続けるのか。
彼女の望み通り、終わらせるのか。
世界が割れる。
ミアが叫ぶ。
「今度は、選んで!」




