二回目の世界:彼女の選択
空に、細いひびが入った。
誰も気づかないほど小さい。
だが僕は知っている。
崩壊の始まりだ。
二回目は、前より早い。
ミアは広場の噴水に腰掛けていた。
夕暮れ。
赤い空。
「リク」
振り向く。
彼女は笑っている。
だが目は静かだった。
「やっぱりね」
胸がざわつく。
「何が」
「これ、二回目でしょ?」
世界が止まる。
「……思い出したの」
彼女は自分の胸に触れる。
「落ちたこと。血の匂い。あなたが泣いてたこと」
言葉が出ない。
「でもね」
彼女は立ち上がる。
「今回は違う」
ひびが、空を走る。
「前は、私が死んだから、あなたが願った」
その通りだ。
「だから今回は」
彼女は、噴水の縁に立つ。
「私が先に選ぶ」
嫌な予感が、全身を貫く。
「やめろ」
「リク」
彼女は穏やかに笑う。
「あなた、優しすぎるから」
ひびが広がる。
建物が揺れる。
遠くで悲鳴。
「七回って言われたんでしょ?」
なぜそれを知っている。
「私、なんとなくわかるの」
彼女は空を見上げる。
「この世界、あなたが無理やり繋いでる」
心臓が凍る。
「このままだと、あなたが壊れる」
噴水の向こうは、石畳。
落ちれば——
「やめろ!」
走る。
だがその瞬間、世界が揺れる。
時間が、わずかに遅れる。
足が重い。
「二回目はね」
彼女は言う。
「私が願う」
そして、身を投げた。
鈍い音。
血が広がる。
僕は間に合わない。
彼女の瞳が、僕を捉える。
「やり直さないで」
世界が割れる。
空が崩れる。
僕は彼女を抱き上げる。
まだ温かい。
「頼む」
喉が裂ける。
「消えるな」
空の裂け目から、声。
『願いを確認』
違う。
違う。
違う。
僕は叫ぶ。
「今回は——」
だがその前に。
ミアが、かすれた声で囁く。
「次は、あなたが消えて」
時間が、凍る。
七つの光輪が現れる。
『再構築三回目、許可』
僕は、理解する。
彼女は、僕を止めようとしている。
やり直しを続ければ、
消えるのは僕だと知っている。
だから——
彼女は、自分で終わらせようとした。
世界が反転する。
光に包まれる。
彼女の最後の視線。
それは、愛だった。
——三回目の朝が始まる。




