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世界が七回、裏返る前に  作者: 臥亜


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3/9

二回目の世界:最初の違和感

目を開けた瞬間、僕は泣いていた。


 


崩壊はない。


空は青い。


鳥が飛んでいる。


風がある。


 


世界は、正常だった。


 


僕は塔の上に立っている。


あの最後の夜と同じ場所。


だが塔は崩れていない。


 


腕の中には——


誰もいない。


 


慌てて振り返る。


 


階段を駆け上がってくる赤い髪。


 


「リクー!」


 


ミアだ。


 


息を切らし、笑っている。


無傷だ。


 


僕は駆け寄る。


抱きしめる。


 


温かい。


生きている。


 


「どうしたの? いきなり」


 


「……覚えてないのか?」


 


「何を?」


 


世界崩壊も、落下も、

血も、願いも。


 


覚えているのは、僕だけだ。


 


胸が締めつけられる。


だがそれでも。


 


成功だ。


 


やり直せた。


 


 


違和感は、三日後に来た。


 


最初に気づいたのは、時計だった。


 


塔の広場の大時計。


秒針が、ほんの一瞬止まる。


 


カチ、カチ、カ……チ。


 


一拍、余分な間。


 


誰も気づかない。


 


次に、鳥。


 


飛んでいた鳥が、

一瞬だけ“静止”する。


 


空中で止まり、

何事もなかったように動き出す。


 


僕は凍りつく。


 


崩壊の前兆に似ている。


 


だが、世界は壊れていない。


 


そして五日目。


 


人が消えた。


 


広場でパンを売っていた老人。


 


瞬きをした瞬間、いない。


 


叫び声もない。


血もない。


 


ただ、存在が抜け落ちる。


 


周囲は騒然とする。


 


だが誰も言わない。


「世界が壊れている」とは。


 


まるで、最初からいなかったかのように。


 


記録も、記憶も、曖昧になる。


 


僕だけが覚えている。


 


 


夜。


 


僕は神殿へ向かう。


一回目では、崩壊直前まで存在していた場所。


 


二回目では、まだ静かだ。


 


扉に触れる。


 


反応はない。


 


「再構築二回目。安定率、低」


 


頭の中に、あの声。


 


「安定率?」


 


「修正誤差が蓄積している」


 


胸が冷える。


 


「崩壊は止まったんじゃないのか」


 


「止めていない」


 


 


息が止まる。


 


「崩壊は起点だ」


 


「願いは崩壊後に発動する」


 


 


つまり。


 


世界はまた壊れる。


 


そのあとでしか、やり直せない。


 


 


膝が震える。


 


「じゃあ、意味がない」


 


「意味はある」


 


声は言う。


 


「前回より、彼女は長く生存する」


 


 


背筋が凍る。


 


“長く”。


 


救える、ではない。


 


長く。


 


 


そのとき。


 


神殿の奥で、足音。


 


振り向く。


 


赤い髪。


 


ミア。


 


 


「やっぱりここにいた」


 


 


彼女は微笑む。


 


だがその目が、一瞬だけ曇る。


 


「ねえリク」


 


 


「最近、変じゃない?」


 


 


鼓動が跳ねる。


 


「何が」


 


 


彼女は胸に手を当てる。


 


「時々ね」


 


 


「私、もう一回死んだ気がするの」


 


 


世界が、わずかに揺れる。


 


 


空のどこかで、ひびが入る音がした。


 


 


——二回目の崩壊が、始まる。

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