下克上は遠く
「主役不在でこれかよォ!」
舞台袖の桜恋は、最早呆れるしかなかった。
「あれ? 今日勝てると思ってたの?」
と、清香は心から不思議そうに桜恋を覗き込んだ。
「トップアイドルの怜兔さんとやらが居ないんだぜ。多少は良い勝負期待してもバチは当たらねえだろがよ」
「うーん……そもそも、今日勝ったとしても得はないっしょ。今日はむしろ、お相手チームの価値を上げる絶好のチャンスでもある」
「上げてどうすんだよ」
「上げて上げて、上げてから足蹴にした方が、うちらの価値も上がるものだよ」
少しも表情を変えず言った清香に対し、桜恋は眉をひそめた。
「……流石に引くわ、その発言」
「えぇー……」
「とはいえ、一理ある」
「でもやっぱり、相手ばかり得してても駄目だから、今日は何としても三位以内が絶対だ。ひとりでも多く知ってもらわなきゃいけない」
「それはそれで大変だが……ま、やるっきゃないわな」
「……理想は二位だからね」
「ああもう、分かってるって!」
「二位と三位じゃインタビューの台本が変わってくる。俺も頑張るから、そっちも頼むよ、リーダー」
清香は目を細め意地悪く笑った。
「くっそー、やりゃいいんだろやりゃあ!」
桜恋は、清香、そして他三人とともに、むき出しの欲望が支配する会場へ向かった。




