第63話 沖田さんと子供とかくれんぼ
6月も残す所あと1日に迫った日。
巡察帰り、私は近所の子供達と広々とした森で遊ぶ沖田さんと出くわした。
「あ、瑞希君」
「沖田さん?何してるんですか?」
「見てわかんないの?」
……わからないから聞いてるんですが。
「ふーん、本当に知らないんだ?……かくれんぼだよ」
「まだ隠れてないじゃないですか」
「これから隠れてもらうんだよ」
「ねぇねぇおにーちゃん、だぁれ?総司にいちゃんのお友達?」
「んー、まぁそんなところかな」
子供達はキラキラした瞳で私と沖田さんを見比べてきた。
「はじめまして。私は瑞希。よろしくね」
「「「「うん!」」」」
軽く自己紹介を済ませ、みんなに誘われた私も「かくれんぼ」に加わることになった。
そして。
「で、なんで君が最初に見つけられるわけ?」
「……知らないですよ、そんなの。見つけたの沖田さんじゃないですか」
「いや、だって丸見えだったし。君、十にもならない子達に負けてどうするのさ」
「う、うるさいですねぇっ!!そんなことよりも早くみんなを見つけましょう!!」
ちなみに、私は木の陰に隠れていて、始まって速攻沖田さんに見つかった。
隠れる場所は森の中限定で、あまり遠くにはいかないという約束付きである。
というわけで、あっさりと見つかった私は沖田さんとともに隠れた子供達を探すこととなった。
「あ、ゆう君みーつけた」
「ああっ、みつかっちゃった……」
草陰で四人の子供たちのうちの一人、ゆう君を見つけると早く見つかったのがショックだったのか、しょんぼりと項垂れる。
「大丈夫だよゆう君!私なんてゆう君よりも先にあっさりとみつかっちゃったんだからね!」
「……本当?」
「うんうん、ほうとほんと」
「そうだよ、ゆう君。瑞希君はゆう君たちよりも年上なのに一番ダメなんだから」
「ちょっ、沖田さん、そこまで言いますか!?」
「あははっ〜瑞希にいちゃん、言われてるー」
「むぐぐ……」
10歳以下の子供にまで笑われた。
その原因を作った沖田さんは真っ黒な笑みを浮かべている。
やっぱり沖田さんは意地悪だーーー!!!
キッと睨みつけてみるものの、あっさりと鼻で笑われてしまうのだった。
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その後、後の3人を見つけ、最後の4人目、莉乃ちゃんを探し始めた、のだが……。
「おかしいなぁ……」
探しても探しても見つからず、とうとう日も傾いてきてしまい、さすがの沖田さんも困ったように眉根を寄せた。
「うーん、後探していないところなんてありましたっけ?」
「いや、ないと思うけど……。一応、ちゃんと約束してあるから、森の外に出ることはないと思うんだけどねぇ」
「約束って言っても、子供はその約束を忘れてどこかに行っちゃうってことは……?」
「子供は君ほど馬鹿じゃないんだよ。約束を守らないと怖い目にあうってことくらい、わかってるはずだよ。お菓子で釣られたらホイホイ何処へでもついていく君とは違う」
「うぐっ。き、危機感なくて悪かったですね!!というか!いくら私でもお菓子ごときでついていくわけないじゃないですか!!……多分」
「……。本当に大丈夫か心配になってきた……」
ーーー「この子大丈夫か」みたいな視線で見下ろされてしまった。
「あれ?これ、莉乃ちゃんの草履だよ……?なんでこんなところに落ちてるんだろう……?」
「……これ、本当に莉乃ちゃんの草履?」
「うん、間違いないよ、総司にいちゃん」
いつも腹のよめない笑みが浮かんでいる沖田さんの顔が険しくなる。
私も、その沖田さんの表情から脳裏に嫌な想像がひらめいた。
ーーー誘拐、もしくは、人さらい。
こと時代では、そうやってさらった子供を売り飛ばすようなことが少なくないと聞いている。
となれば……。
「……ゆう君、花ちゃん、健介君。莉乃ちゃんのことは僕たちが必ず探し出すから、君たちは先に戻ろう。そろそろ夕暮れに近いから」
「え、でも……」
「大丈夫だよ。莉乃ちゃんのことは、私と沖田さんが必ず見つけ出すから」
不安げな3人を安心させるよう、しゃがみこみ、目線を合わせるようにして言うと3人はこくりと頷いた。
「……瑞希ちゃんは土方さんに今夜はちょっと遅れるって伝えてきて。僕はこの子たちを送って行くから。屯所の前に集合」
「わかりました」
沖田さんは子供達に聞こえないようにそう囁くと3人を連れて来た道を引き返し始めた。
わたしは急いで屯所に戻り、土方さんに事情を伝えると、意味を理解した土方さんは厳しい顔つきで頷いた。
「……わかった。しっかり子供を連れ戻してこい」
「はい!もちろんですっ!!」
莉乃ちゃんは、私たちが必ず連れ戻す。
みんなと約束したんだから。
そう心に固く決め、集合場所へと向かった。
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急いで屯所の前へやってくると、そこには沖田さんと、そして予想外の人物がいた。
「晴明君!?」
「瑞希さん!……事情は沖田さんから聞いています」
「そ、そう……でもどうしてここに?」
「彼はさっき巡察から帰ってきたんだよ。それで、せっかくだから協力してもらおうと思って。なんせ、晴明君は陰陽師だからね」
「あ、そっか!!」
陰陽術で莉乃ちゃんの行方を追えるかもしれない!
「それで、その、莉乃さんがいなくなったと思われる場所はどこですか?」
「こっちだよ。莉乃ちゃんの草履を目印に置いてきたから」
沖田さんの先導の元、私たちはさっきの場所へと押しを進めた。
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「ここだよ」
日没が近づいているせいであたりは薄暗く、昼間は光が差し込んでいたおかげで明るかった森も、影っているせいで薄気味悪く感じる。
晴明君は落ちていた草履の上に、どこから取り出したのか、右手に、何かの文字が書かれた紙切れを置き、両手で複雑な印を結んだ。
「……『我が求めし道をこの場に示せ』!」
ーーーリンッ
一陣の風とともに奇妙な鈴の音のような音が響く。
「!!うそっ!」
その瞬間、ふわりと舞い上がった紙切れは瞬時に真っ白な鳩に姿を変え、宙に飛び上がった。
「……見つけました。莉乃さんは向こうです。追いましょう!」
「了解!」
「え、ちょっ、二人とも!?」
迷いなく飛ぶ白い鳩を追いかけ、勢い良く走り出した2人の後を、私は慌てて追いかけた。




