第25話 無防備な君
【沖田総司】
「あ……」
「ほんと、君、どんくさいね」
「お、沖田さん……」
珍妙な悲鳴をあげて布団に押しつぶされそうになった瑞希ちゃんは僕が助けてあげると顔を真っ赤にさせた。
へぇ?君にも女の子らしい一面があるんだね?
「ふふっ、瑞希ちゃん、顔真っ赤だよ?」
「っ……!」
僕の言葉に、ますます顔を赤くして顔を背ける瑞希ちゃん。
それぐらいじゃあ、隠せないよ?
2人分の布団を敷くと瑞希ちゃんがお礼を言ってきたからちょっとからかって、
「別に?君がやるよりも僕がやったほうが早いからやっただけだけど?君に布団ぶちまけられたら、僕の仕事増えるし。ま、無様に転んだ君の間抜け面が拝めたから楽しかったからいいけどね★」
と言ってみたら、
「……あっそうですか」
ちょっと怒った顔をしてそっぽを向く瑞希ちゃん。
あはは、面白い。
それから機嫌を損ねたらしい瑞希ちゃんはさっさと布団に入って、明かりもついたまま眠ってしまった。
布団の中からは穏やかな寝息が聞こえている。
「ん……」
わずかな身じろぎの後、布団から顔を出した瑞希ちゃんが小さな吐息を漏らす。
「ふにゃ……」
幸せそうな、そして安心しきった寝顔。
「……無防備だね、瑞希ちゃん」
異性の前で、こんな寝顔を晒すなんて。
枕元に近づきその寝顔を覗き込むも、疲れているのか全く起きる様子もない。
「普通逆だよ瑞希ちゃん……」
君があまりにも無防備なのを、君が警戒すべき僕に指摘されるなんて。
君、僕のことが嫌いなんでしょ?
だったらもっと警戒しなきゃダメじゃないか。
……。
……。
けれど、わからない。
なぜ、僕はこんな気持ちになっている?
僕が、瑞希ちゃんを心配してる?
どうして?
別に、瑞希ちゃんが無防備だからって、不安になることなんて、何もないはずなのに。
それは僕のせいじゃないもの。
ただ、取引に支障がでるから?
……本当に、それだけ?
『……私、あなたが嫌いです』
どうして。
あの時の彼女の言葉を思い出すと。
心にポッカリと穴が空いたみたいな気持ちになるの?
瑞希ちゃんの寝顔は相変わらず無邪気で、警戒心は欠片もない。
僕は、それ以上彼女を見つめていたら何か、超えてはいけない一線を越えてしまいそうで目をそらす。
胸に手を当ててみると、なぜか心臓の鼓動がいつもよりも速かった。
利用してあげるつもりだったのに。
それなのに。
ーーーどうして僕の心はこんなににも乱されるんだろうか?




