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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第十章 始まりの「分岐点」
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第106話 私はもう迷わない

「何もないねぇ〜」

「そのほうがいいですよ、瑞希」


ーーー私の隣を歩く平助君がそう、呆れたように言った。


「あははは。まぁそうだよねぇ〜」


ーーー私と平助君はただいま夜の巡察中である。


いやはや、夜が非番じゃないの、久しぶりだなぁ。


なぜか私は昼の巡察が多いんだよね。


なんでだろ?


今度土方さんあたりに聞いてみよう。


「……瑞希」

「ん?何、平助君?」

「……つけられてます」

「え」


平助君の唐突かつ真剣な声音に、ハッとして後方の気配を探る。


ーーーいた……!!


私たちの後方約40メートルに、7人ーーーいや、8人ーーー?


ーーー平助君に指摘されるまで気づかなかった……。


これでも気配消すのがうまい沖田さんに気配の察知方法、習ったんだけどなぁ……。


やはりこれが幕末の人間と私のような平和ボケした平成人の差か。


こればっかりはどうしょうもないことだけど、やっぱりなんか悔しい。


「気づいてないフリをしますよ、瑞希。開けた場所に誘い出します」

「了解」


頷き、無言で暗い夜道の中、足をはやめた。



********************



「ここまで来ればいいか……瑞希、ここで彼らを迎え撃ちましょう」

「……そう、だね」


開けた場所へとたどり着き、二人でそう示し合わせた時だった。


「……」

「……!」


ーーー来た。


それを感じた瞬間、あっという間に現れた8人の男たちによって囲まれてしまう。


「……お前たちは新選組だな?」


8人のうちの一人、リーダー格の男がそう尋ねてくる。


とはいえ、今、私たちはかの有名な浅葱色の羽織を着ている。

彼らだってそれは知っているだろうから、これはおそらく最終確認なんだろう。


「……あなたたち、長州の者で……ッ!!」


ーーー突然襲い掛かってきた剣を平助君が引き抜いた刀で弾き、男を睨みつけた。


私も彼にならい、腰のレイピアを抜く。


「不意打ちなど、武士の風上にも置けませんね」

「チッ……貴様らなどッ……!!死ねぇええええええッ!!!!」


キンッ!!!!


刀と刀がぶつかる金属音が鳴り響く。


男の刀を弾きつつ、平助君は刀を構え、一歩前に踏み出した。


「新選組が一人、藤堂平助、参るっ!!」


そう叫ぶや否や、敵の中へと飛び込んでいく。


キン!!


カンッ!!


ズシャッ!!


ーーー夜道に、真っ赤な華が咲く。


ーーー平助君が、敵を斬ったんだーーーーーーーーー。


ぐらりと傾き、倒れていくソレを見下ろす平助君の瞳は冷え冷えとしていて、私は思わず息を呑んだ。


「ーーー後ろですっ、瑞希!!」

「!!」


ーーー平助君の緊迫した声に、私は弾かれたように後ろを振り返り、ふりかぶられた剣をレイピアで受け止める。


「くっ……」


相手の力が、強い。


もちろん、負けるつもりは毛頭ないし、それを切り抜ける方法はある。


けど……!!


それをしたら、私はこの人を……。


ーーー斬ってしまうっ!!


「……か」


馬鹿っ!!


覚悟は決めてたはずでしょうが!!


あの、芹沢さんを粛清した時にっ!!!!


今日まで人を斬らなくて済んだのは、運が良かったからなんだっ!!


ーーー私が、こいつを斬らなくて、もし、こいつが平助君を斬ったら?


ーーー私が情けをかけて、仲間が死ぬんだよ?


「……んなの」


ーーーそんなの、絶対に嫌だっ!!!!


ーーーキンッ!!


「はぁああああっ!!!!」

「!!!」


ズシャッ!!


ーーー目の前に迫った刀を力任せに弾き、体のバネを利用し、私は目の前の敵を斬った。


「があっ!!」

「っ、こいつっ……!!」

「くそがっ!!」


それを見た男二人が私に斬りかかってくる。


が。


「私はもう、迷わないっ!!」


グサッ


ズシャッ!!


レイピアを軽く後ろに弾き、立て続けに得意の突きで二人へと突き立てたーーーーーーーーーー。


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