第106話 私はもう迷わない
「何もないねぇ〜」
「そのほうがいいですよ、瑞希」
ーーー私の隣を歩く平助君がそう、呆れたように言った。
「あははは。まぁそうだよねぇ〜」
ーーー私と平助君はただいま夜の巡察中である。
いやはや、夜が非番じゃないの、久しぶりだなぁ。
なぜか私は昼の巡察が多いんだよね。
なんでだろ?
今度土方さんあたりに聞いてみよう。
「……瑞希」
「ん?何、平助君?」
「……つけられてます」
「え」
平助君の唐突かつ真剣な声音に、ハッとして後方の気配を探る。
ーーーいた……!!
私たちの後方約40メートルに、7人ーーーいや、8人ーーー?
ーーー平助君に指摘されるまで気づかなかった……。
これでも気配消すのがうまい沖田さんに気配の察知方法、習ったんだけどなぁ……。
やはりこれが幕末の人間と私のような平和ボケした平成人の差か。
こればっかりはどうしょうもないことだけど、やっぱりなんか悔しい。
「気づいてないフリをしますよ、瑞希。開けた場所に誘い出します」
「了解」
頷き、無言で暗い夜道の中、足をはやめた。
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「ここまで来ればいいか……瑞希、ここで彼らを迎え撃ちましょう」
「……そう、だね」
開けた場所へとたどり着き、二人でそう示し合わせた時だった。
「……」
「……!」
ーーー来た。
それを感じた瞬間、あっという間に現れた8人の男たちによって囲まれてしまう。
「……お前たちは新選組だな?」
8人のうちの一人、リーダー格の男がそう尋ねてくる。
とはいえ、今、私たちはかの有名な浅葱色の羽織を着ている。
彼らだってそれは知っているだろうから、これはおそらく最終確認なんだろう。
「……あなたたち、長州の者で……ッ!!」
ーーー突然襲い掛かってきた剣を平助君が引き抜いた刀で弾き、男を睨みつけた。
私も彼にならい、腰のレイピアを抜く。
「不意打ちなど、武士の風上にも置けませんね」
「チッ……貴様らなどッ……!!死ねぇええええええッ!!!!」
キンッ!!!!
刀と刀がぶつかる金属音が鳴り響く。
男の刀を弾きつつ、平助君は刀を構え、一歩前に踏み出した。
「新選組が一人、藤堂平助、参るっ!!」
そう叫ぶや否や、敵の中へと飛び込んでいく。
キン!!
カンッ!!
ズシャッ!!
ーーー夜道に、真っ赤な華が咲く。
ーーー平助君が、敵を斬ったんだーーーーーーーーー。
ぐらりと傾き、倒れていくソレを見下ろす平助君の瞳は冷え冷えとしていて、私は思わず息を呑んだ。
「ーーー後ろですっ、瑞希!!」
「!!」
ーーー平助君の緊迫した声に、私は弾かれたように後ろを振り返り、ふりかぶられた剣をレイピアで受け止める。
「くっ……」
相手の力が、強い。
もちろん、負けるつもりは毛頭ないし、それを切り抜ける方法はある。
けど……!!
それをしたら、私はこの人を……。
ーーー斬ってしまうっ!!
「……か」
馬鹿っ!!
覚悟は決めてたはずでしょうが!!
あの、芹沢さんを粛清した時にっ!!!!
今日まで人を斬らなくて済んだのは、運が良かったからなんだっ!!
ーーー私が、こいつを斬らなくて、もし、こいつが平助君を斬ったら?
ーーー私が情けをかけて、仲間が死ぬんだよ?
「……んなの」
ーーーそんなの、絶対に嫌だっ!!!!
ーーーキンッ!!
「はぁああああっ!!!!」
「!!!」
ズシャッ!!
ーーー目の前に迫った刀を力任せに弾き、体のバネを利用し、私は目の前の敵を斬った。
「があっ!!」
「っ、こいつっ……!!」
「くそがっ!!」
それを見た男二人が私に斬りかかってくる。
が。
「私はもう、迷わないっ!!」
グサッ
ズシャッ!!
レイピアを軽く後ろに弾き、立て続けに得意の突きで二人へと突き立てたーーーーーーーーーー。




