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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第九章 新たな出会いはバトルの幕開け!?
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第98話 臆病な剣

ーーー夜。


太陽が沈んでからすでの数時間はたち、あたりは僅かな月明かりを除いて、光は見当たらない。


ーーーそんな中、私たち三人はとある一軒のお屋敷へとやってきていた。


「……山崎さん、よくここがわかりましたね」


このお屋敷には、件のさらわれた女の人たちがいる。


この情報をたった数時間で掴んできた山崎さんの情報収集能力には感嘆する。

私たちが雇われた用心棒達に捕まっていて、その後私が大立ち回りをやらかしたのはつい数時間前だ。

そのわずかな時間で、彼はあの女性達の監禁場所を割り出したのだ。


「まぁ、いろいろその手の伝はありましたから」


クスリ、と、悪戯っ子の笑みを浮かべる。

と、屋敷の方をじっと見つめていた沖田さんが細めていた目を開いて言った。


「山崎さんの情報通り、雇われた『護衛』は十数人ってところだよ」

「……」


……なんで屋敷の外から中の人数まで把握できるんですか、沖田さん。


こっちもこっちで人間離れしてるなぁ、おい。


「それじゃあちょっと行って暴れてこよーか?」


楽しげに言う沖田さんの顔は真っ黒で、そういえば、と、この間の近所の子供が誘拐された事件を思い出す。

今回の展開はあの事件とよく似ている。


沖田さんの本当に楽しそうな笑顔が怖い。


「待ってください。なんの計画も立てずに行くのは危険すぎます。相手は十数人、こちらは対して3人。数が違います」

「え、そう?肩慣らしにはちょうどいいって思ったんだけど」

「か、肩慣らし!?」


沖田さんのあっさりとした一言に目を丸くする山崎さん。


うん。


まぁ。


ーーー正当な判断だな。


が、この人に正当も常識も通用しないんですよ、山崎さん。


「大丈夫大丈夫。前もこれくらいの量さばいたから。瑞希君と一緒に。変に計画立てるより、さっさとぶっ飛ばしちゃった方がよくない?」


……。


さっき思ったけどさ。


沖田さん、見かけによらず、結構考え方脳筋だよね。


「あ、瑞希君、今何か失礼なこと考えたでしょ」

「き、気のせいですよ」


危ない危ない。


随分と勘のいい野生児である。


「しかし……それでもしものことがあれば……」

「ないない。僕を誰だと思ってるの?そんな、寄せ集めの金で雇われた連中にこの僕が負けるとでも?」

「それは……」


不敵な、ゾクリとするような笑みを浮かべる沖田さんに、山崎さんはたじろいだように口を噤んだ。


「まぁ、なんとかなりますよ、山崎さん。前も一つ、子供の誘拐やってたグル……組織、二人で潰しましたから」


まぁ、あの時は晴明君も外でサポートしてくれてたけど。


「あの時も敵、十数人はいたよねぇ」

「ああ、いましたいました!」

「そ、そうですか……」


笑顔で言い合う私たちを、なぜか山崎さんは弱冠引いた顔で頷いた。


「それでは、その、お二人の力を信じましょう」

「それじゃあ早速突撃っと」


さらっとそんなことを言い……。


「あっ……」


ーーー山崎さんが何かを言うよりも速く。


ーーー沖田さんの回し蹴りが屋敷の戸へ、華麗にヒットした。


ああ、既視感。



********************



【山崎丞】


桜庭さんの強さにも驚いたが、それ以上に彼が最近有名になってきた「新選組」という組織の一員だというのにはすこぶる驚いた。


そして。


今はそれ以上に。


ーーー私は目の前の光景に驚かされていた。


「ぐああっ!!」

「ぎゃあっ!!」


断末魔とともに朱が舞う。


ソレをやった人物はほんの少し口角を上げ、一見すると笑っているように見えるが、その瞳は見るものを凍りつかせるような冷徹な光を宿している。


ーーー沖田総司。


新選組きっての剣豪と名高く、また、人を斬るのに一切の躊躇を見せず、一切の情けをかけない冷酷さから彼の敵となる者たちに恐れられる存在。


確かに、そう言われる通り、彼の剣術は素晴らしい。

一対一で戦えば、私に勝ち目はない。


一撃一撃の重さ、速さ、技、どれをとっても超一流。

ここに突入してまだ数分しか経っていないというのに、彼の刀の前に倒れた者の数は片手では足りなくなっている。


しかし、それでもまだ、その者たちには命があった。


つまり、情けをかけないはずの彼が命だけはとっていない、ということである。


その原因は、彼のすぐ隣で刀を振るう小柄な少年にあった。


かの少年は、沖田総司が部屋の戸を蹴破った直後、彼にこう囁いた。


『殺しちゃダメですよ』


『たとえあんなロクデナシでも、ちゃんとした司法で裁かれるべきなんですから』


その少年の言葉に、彼は苦笑を返して頷いた。


ーーーそんな少年もまた、もちろんのこと、剣を振るっており、時々朱が舞うこともあるが、しかし、致命傷を与えるのではなく、気絶させるという道を選んでいた。


ーーー彼の剣もまた、一流。


さすがに、沖田総司の域までは達してはいないが、それもあと少ししたら……。


小柄なせいか、一撃の重さは劣るものの、その体から放たれる剣撃は速く、鋭い。


速さだけならばおそらく、沖田総司にも勝るだろう。


ただ、今使っている日本刀を、どこか使いづらそうにしているのが気になった。


どうやら、あの少年は普段変わった形の刀を使用しているようで、今の日本刀ではやりにくいのだろう。


ーーー二人の剣士へと向けていた視線を目の前の敵へと戻し、私は刀を構えなおした。


「戦闘中によそ見たぁいい度胸だなぁっ!!!」


苛立った様子の男は一直線に斬りかかってくるーーーーーーーーーー。


「……いい度胸、か」


ーーーーーーその件を軽く受け流し、ガラ空きになった男の背中を斬りつける。


男は悲鳴をあげて倒れ伏した。


「……それは違いますよ」


私には、そんな、度胸なんてものはない。


ないからこそ、そして、臆病だからこそ。


「だから私は、『観察』するんです」


ーーー相手のことを知るために。


知れば、その隙をつくこともできるから。


ーーー私の剣は、あの二人とは違って、臆病な剣だ。


だが、その臆病さもまた、武器になることを知っている。


ーーーそれでも。


あの二人の剣を、いやーーーーーー。


あの真っ直ぐな眼差しで懸命に剣を振るう小柄な少年を、目で追ってしまうのは何故だろうかーーーーーーーーーーー?


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